2020年の電子契約サービスの行く末を占う報告書が出した結論
リモート署名等の技術を用いた新たなトラストサービスの法制化を目指し、総務省が開催していた研究会・ワーキンググループが閉会。その「最終とりまとめ」文書において、トラストサービスの法制化は見送られることになりました。これにより、2020年は民間事業者による電子契約のデファクトスタンダード争いが激化することが予想されます。
プラットフォーム研究会の「最終取りまとめ」固まる
2019年12月下旬、東京大学大学院の宍戸常寿教授を座長とする「プラットフォームサービスに関する研究会」の最終報告書(案)がとりまとめられました。
本文書は、プラットフォームサービス事業者が提供するさまざまなサービスで現に発生し、また今後もさらに問題化するであろうイシューの中から、
- 利用者情報の適切な取扱いの確保
- フェイクニュースや偽情報への対応
- トラストサービスの在り方
の三大テーマを取り上げ、総務省のもとで今後のインターネットサービスの大きな方向性を左右する議論を1年行っていた会議体による最終成果物 となります。
国家主導のトラストサービス法制化は先送りに—認定認証事業者らの願い届かず
「リモート署名」に代表される電子契約の未来を左右する技術の法制化については、この報告書の第3章にもまとめられているとおり、研究会の下部組織となる「トラストサービス検討WG」が主体となり、企業ヒアリング / 経団連アンケート / EU等の海外動向調査などの結果が立法事実として用いられながら、論点と取組みの方向性が検討されてきました。
その結果、このタイミングでトラストサービスを国主導で法制化することはせず、見送るという結論 となりました。
情報セキュリティ分野に精通する日経コンピュータの大豆生田記者が、この結論を以下のように報じています。
▼ トラストサービスの法制化見送り 電子契約の普及、欧米に遅れ
電子契約の普及に不可欠な「トラストサービス」の法制化が見送られた。総務省の有識者会議が検討していたが、立法や法改正を提言しなかった。欧州連合(EU)は2016年に制度化したが、日本は当面、民間主体となる。
(中略)
WGがトラストサービスの法制化を見送る背景にあったのは、既存の法律という高い壁の存在だった。新しい立法や法改正は既存の法制度にある問題や矛盾の解消を目的にするのが通例で、eシールのようにまだ普及していない新たなITの仕組みを法制度に盛り込むのは難しいと分かったという。
(日経XTECH ニュース&リポート 2019年12月26日)
どうしてこのような結論となったのか?トラストサービス検討WGに委員として参加していたメンバーを改めて見てみると、NTTグループをはじめとして、従来の電子署名法の枠組みの元での電子契約サービスの普及拡大に苦労していた「認定認証事業者」が多くを占めていることがわかります。
「EUを手本にし、国家主導で新しいトラストサービスの認定制度法制化を行えば、ユーザー企業らも安心してサービスを利用するようになり、広く普及するはずである」と考える彼らの主張は、総務省ウェブサイトに公開されているWG議事要旨でも確認ができます。
しかしながら、2016年に法制化されて以降、そのおかげで普及したとは必ずしも言い切れないEU型に倣った、いわば 強制的なスタンダードの押し付けを行う必要性までは総務省(および電子署名法を共同で管轄する法務省・経産省)には認められず、まずは民間の普及努力を見守るべきとされたわけです。
2020年は民間事業者によるデファクトスタンダート争いが激化する年になる
今回の法制化見送りにより、国主導で「今後の日本の電子契約サービスの形はこうあるべき」が検討・定義されることは、タイミングとしては少なくとも今後3年はなくなったものと思われます。
しかし、そのことが紙と印鑑から電子契約への移行を妨げるものではないと考えます。オンライン上で処理される企業間のコミュニケーションは増える一方であり、むしろリアルタイム性のニーズはメールからチャットベースに移行するなど、高いスピード感がますます要求されています。この流れは、行政手続きのデジタルファースト化や司法分野での裁判手続きのIT化という追い風にも乗って、さらに進んでいく一方だからです。
むしろ 国がはっきりと民間に委ねたことにより、各事業者が提供する電子契約サービスの中でユーザーから最も支持を集める「デファクトスタンダード」争いが激化することになる のが、ここから先数年間の日本の電子契約業界に起こることでしょう。
クラウドサインも、ユーザーの皆様から最も期待や信頼を集めるサービスとしてこの競争に勝ち残れるよう、革新と改善を積み重ねてまいります。2020年も引き続きよろしくお願いいたします。
(橋詰)
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