Hubbleが仕掛ける新フリーミアム型SaaS戦略


「Word文書のバージョン管理ツール」というニッチなプロダクトでリーガルテック業界を突っ走るHubbleが、個人向けだったフリーミアムプランを法人のチーム向けに拡大。挑戦的なこのマーケティング戦略に踏み切ったのはなぜか?早川CEOにお話をお伺いしました。

面白い仕事・優秀な人材が集まる場所にもまだ存在する単純作業の山

—早川さんを取材させていただくのはもう1年以上ぶりです。最近ではCLOの酒井先生と並んで、すっかりリーガルテックスタートアップの顔になりましたね。

サインのリ・デザインやクラウドサインさんのイベントでも何度も取り上げてもらって、ありがとうございます。おかげさまで、認知度も上がってきた気がします。

株式会社Hubble  CEO 早川晋平 様
株式会社Hubble CEO 早川晋平 様

—ウォッチしていると、Hubbleは大企業の法務部というプロダクト導入に慎重な部署でも、大きな抵抗もなくすんなりと受け入れられているな、という印象です。

ありがとうございます。Hubbleは、法務部と他の部署間で「小さく始めることができる」こと、また、「既存のシステムと連携・調和」していくことができるので、その点で利用を開始しやすいことがあると思います。また、最近は経営法友会のような法務部門のネットワークから口コミが広がって、ご紹介で引き合いをいただいたりすることが多くなりました。

契約書だけではなく、社内規程の改訂・株主総会書類等の作業・管理にHubbleを使うニーズなどにも広がっています。

—つい先日は、交渉機能ベータ版も発表されましたよね。

これまで社内のドキュメントに限定したものでしたが、契約の相手方との交渉もHubbleで行うことができるようになります。これにより、社内の検討プロセス、交渉プロセス、そしてクラウドサインとの連携による締結までを一気通貫でHubbleで行うことができます。

まだまだUIを揉んでいるところですが、交渉という高度な場面で修正履歴の取り違え・見間違いが起こらないような高度な仕組みを、HubbleらしいシンプルなUIで実現したいと思っています。楽しみにしてください。

—そんな中、今回は、フリーミアムプランの範囲を拡大されるんだとか?

はい。これまで、Hubbleは個人向けに月10ファイルまでを上限に、無料でお使いいただいていました。これを12月20日から、1社チーム3名まで、ファイル数で月30ファイルまで、無料でお使いいただけるようになります。

SaaSのセオリーに逆張りで挑む

—ウェブサービスって、最初こそフリーミアムで認知拡大を図るものの、だんだんと「絞って」いくのがセオリーじゃないですか。それにもかかわらず、今フリーミアムを拡大する道を選んだというのは、賭けに出たということなんでしょうか?

賭けじゃないんですよ。勝算はきちんとあります。

Hubbleの場合、フリーミアムプランからの有料転換率が高く、他の集客導線のROIを大きく上回っているんです。しかも、そうした転換ユーザーの方々は個人事業主やスタートアップの社長ばかりかとお思いかもしれませんが、大企業の法務の方がほとんどです。

—そういえば、先日の弁護士ドットコム BUSINESS LAWYERS主催のイベントでも、三井不動産さまがHubbleユーザーとして登壇されていました。

これはよく驚かれるのですが、Hubbleの有料ユーザーは、法務部門が数十名もいらっしゃるような大企業のお客様のほうが圧倒的に多いんです。

私たちも、そういったエスタブリッシュな大企業の法務の方々に、チーム利用でこそ活かせるHubbleの真価をお試しいただきたいと考えています。せっかくHubbleを体験してもらうなら、チームでWordドキュメントを更新していく時の便利さを実感していただきたいですよね。

しかし、いままでの無料プランでは個人ユースでしかお試しいただけず、せっかく興味を持ってくださった大企業所属のお客様にストレスを与えてしまっていました。そこを解消しようというのが、今回のチーム向けフリーミアムプラン拡大の狙いです。

—お言葉ですが、BtoB SaaSのエンタープライズ市場攻略法って、やっぱり最後は営業やカスタマーサクセスが人の力でオンボーディングまで面倒を見るのがセオリーという気がするのですが・・・フリーミアムで大企業のお客様を増やそうというのは、逆張りな戦略に感じられます。

僕の信念として、プロダクトの魅力を磨き込めば、ゴリゴリの営業をしなくてもエンタープライズなお客様にも使っていただける。そう信じています。

もちろん営業自体を否定しているのではないです。営業はプロダクトを知ってもらえる一つの手段であって、限られたリソースの中で、その他の手段についても、検証していきたいと思っています。言い換えれば、営業があまりに強過ぎる組織というのがあまり好きではない、バランスを意識したいんですね。SaaS企業の先輩方から「甘いよ」と怒られるかもしれませんが(笑)。

特にHubbleは、体験してもらえれば、その利便性を感じてもらいやすいプロダクトだと思っています。なので、まずは体験してほしい、利用までのハードルを極力下げたい。できるだけ、Hubbleがお客様に届くまでのギャップや抵抗感を排除したい。そういう思いがあります。

そうすることで、大企業間でも口コミで広がっていくと思いますし実際にSNSやオフラインの経営法友会などのコミュニティでも、僕らの知らないところでHubbleが広まっているということが起こっています。

目指すはAtlassianのようなプロダクトドリブンな会社

—あくまで、プロダクトドリブンでありたいと。

いま、営業は主に、CLOの酒井と松本の2人でやっていますが、クラウドサインさんのようなネットワーク効果が働くプロダクトであれば、コンパクトな営業チームでもスケールしていけるイメージがあります。

実はそういった背景もあって、今回のフリーミアムプランの強化にあわせて、いままで有料プランでしかできなかった「クラウドサイン連携」「Slack連携」も無料プランから行えるようにしたんです。

そして、先ほどもお話したとおり、交渉機能のベータ版もスタートさせています。そうやって、ネットワーク効果を意識したプロダクトに変化させていっているのも、プロダクトドリブン戦略の一つです。

—理想としている企業があるのでしょうか。

サービスのバリエーションを増やすことでエンタープライズ市場も攻略していく。これを上手にやっているのが、オーストラリア企業のAtlassianです。ConfluenceもTrelloもJIRAも、ひとつひとつのプロダクトの機能は極めてシンプル。彼らも、セールスチームはほぼ人員ゼロでスケールしていきました。

いつか限界がくるのかもしれませんが、宗教的と言われても今はチーム、自分が信じる道、プロダクトドリブンに振り切って彼らの経営をマネしていきたいなと思っています。

—いいですね。御社の成長を引き続き楽しみにしています。

ありがとうございます。

(聞き手 橋詰)

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