請負契約の民法(債権法)改正対応
民法改正に伴う契約書ひな形の見直し、それに伴う取引先との契約書の蒔直しのために、電子契約への移行を検討される企業が増えています。今回は、改正の影響を強く受ける請負契約の民法改正対応について、ポイントをリストアップします。
請負契約書ひな形の民法改正対応総論
請負契約とは、契約当事者の一方が仕事を完成させ、相手方が仕事の結果に対して報酬を支払うことについて合意する契約 をいいます(民法632条)。
請負契約は、すでに物として存在する製品を売り買いする売買契約と異なり、形のない仕事を発注者が定める仕様・要望に従って成果物として収め、その仕事の完成と引き換えに対価が支払われる契約になります。売買契約と比較し締結頻度は低いものの、「仕事が完成したといえるか否か」を争うトラブルの発生確率は高くなります。
この請負契約特有のトラブルを解決しやすくするため、売買の売主の担保責任とは異なる特別な担保責任が規定されていました(改正前民法634条・635条ほか)。しかし今回の改正民法では、請負契約の担保責任を特別扱いする条文が削除され、売買契約に関する民法の規定をその他の有償契約にも準用(民法559条)する こととなりました。この点は、既存の請負契約のほぼすべてに大きな影響を与えます。
請負契約書で見直すべき条項リスト
以下、請負契約の担保責任に関する改正内容を中心に、手当てが必要になる点について説明します。
(1)担保責任条項
① 担保責任に関する有償契約の原則規定の準用
改正前民法634条・635条では、「仕事の目的物に瑕疵があるとき」は、注文者は瑕疵の修補請求または損害賠償請求ができ、瑕疵によって契約目的が達成できない場合に限って解除ができる旨が定められていましたが、この改正民法ではこの2つの条文がまるごと削除されました。
その結果、担保責任に関しては有償契約の原則となる売買契約の規定が準用され(民法559条)、「仕事の目的物が契約不適合にあたるとき」は、注文者は以下の権利を行使できる ことになります(562条、563条)。
- 履行の追完(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)請求
- 相当の期間を定めて履行の追完がなされないときは代金の減額請求
- 損害賠償の請求
- 解除
その上で、改正前民法の条文をそのまま適用することにしていた場合には特に、請負人の担保責任について改正民法施行を期に修正をするのかの判断と交渉が必要となります。
- 請負人の修補義務について「瑕疵が重要でなく修補に過分な費用を要する場合」に限定する規定
- 注文者の契約解除権について「契約の目的が達成できない場合」に限定する規定
- 注文者の契約解除権について「建物その他の土地工作物が仕事の目的物である場合」に不可とする規定
特に、上記3点は見直しや削除の検討が必要となるでしょう。
② 担保責任の存続期間(権利の期間制限)の変更
加えて、請負人の担保責任の存続期間についても、規定ぶりが変更されました。
改正前民法637条1項は、担保責任の存続期間について原則「引渡した時から1年」としつつ(改正前民法637条1項)、建物・土地工作物について堅牢性に応じて「引渡しから5年または10年」とする特則を定めていましたが(改正前民法638条)、改正により、目的物の種類にかかわらず、注文者が契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知することで統一 されます(改正民法637条1項)。
この「通知」の要件について「たんに不適合である旨の通知を行えばよい」とする文献も多く存在するものの、立法担当官解説によれば、不適合の種類・範囲をある程度把握できる程度の通知が必要と解されています。
単に契約との不適合がある旨を抽象的に伝えるのみでは足りない。細目にわたるまでの必要はないものの、不適合の内容を把握することが可能な程度に、不適合の種類・範囲を伝えることを想定している。
—筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務,2018)P285
また、「知った時から1年以内」は、数量の不適合については期間制限がなく(改正民法637条1項)、また重過失によって知らなかったときも適用がありません(改正民法637条2項)。なお、期間制限が適用されないとしても、注文者が契約不適合を知った時から5年間、目的物の引渡しまたは仕事完成時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(改正民法166条1項)。以上から、契約不適合責任は、実質的に引渡しまたは仕事完成時から10年間追求可能になると考えられています。
現実のビジネスでは、検査・検収プロセスの規定とあわせ「引渡しから○か月以内に行使する」といった特約をするケースが多くみられますが、改正前民法の原則に従うものとしていた契約では、条件の明確化が必要となります。
(2)解除条項
① 建物等の建築請負における解除権の制限の見直し
改正前民法では、土地工作物の建築請負では、深刻な瑕疵があっても注文者は契約解除をすることができない
とされていましたが(改正前民法635条ただし書き)、改正民法ではこの条文が削除されました。
② 注文者の破産手続き開始による解除の制限
改正民法では、注文者が破産手続開始決定を受けた場合 について、「ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。」とするただし書きが新設され、請負人からの解除ができない ことが明文化されました(改正民法642条1項ただし書き)。
特に②について、契約解除事由の中に、破産手続等開始決定をトリガーとする規定を定めるた契約書ひな形は少なくないと思われます。ここに「支払の停止または破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始もしくは特別清算開始の申立てがあった場合(注文者が破産手続き開始の決定を受けた時点で請負人が本業務を完了していた場合を除く。)」といったただし書きを付しておく必要があります。
(3)支払条項
これまで、仕事が未完成のうちに契約が終了した場合における請負人の報酬請求権については、判例法理のみで条文上明らかではありませんでした。
改正民法では、請負人が既にした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定が新設されました(改正民法634条)。
この割合的報酬請求権はすでに判例上認められている権利であるものの、仕事完成前に請負契約が終了するケースはトラブルによるものがほとんどです。訴訟等に持ち込まずとも応分の報酬の支払いを受けられるよう、何らかの割合的報酬の算定式を入れておくことが望ましいと言えます。
(4)その他一般条項
その他の一般条項については、既に公開済みの記事「基本契約および一般条項の民法(債権法)改正対応」もご参考ください。
民法改正は請負契約の電子化を始める絶好の機会
以上、請負契約書の民法改正対応ポイントをまとめてみました。
改正民法の施行日も迫ってきましたが、ひな形の見直しを期に契約を電子化することで、請負契約につきものの収入印紙を貼付する必要がなくなります。最大1通60万円かかる印紙税コストをゼロにする、直接的な経費削減メリットを享受することができます(関連記事:収入印紙が電子契約では不要になるのはなぜか?—根拠通達と3つの当局見解)。
もちろん、取引先との紙の契約書・注文書の押印・郵送による取り交わしがなくなり、受注スピード向上にも貢献します。
数多くの取引先とスピーディに、かつ漏れなく契約を締結し直すためにも、印刷・製本・押印・郵送が不要となり、契約相手方からの回収、契約後の検索・管理も容易 な電子契約クラウドサインのご利用をご検討ください。
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