契約交渉で法務担当者に同席してもらうためのTips
契約書自体が見慣れない事業担当者としては、ただでさえ不安な契約交渉。かといって法務担当者を頼って同席を求めても「そんな暇はない」「事前のアドバイスなら」と拒絶されることも。そんな場合にどう頼めば同席に応じてもらいやすくなるか?注意点をまとめてみました。
契約交渉にかかる時間は予測も回避もできない
クラウドサインが解決したい課題に、「契約締結のスピードと安全性の両立」があります。弊社の広告のタグラインも、「クラウドで契約をかんたんに」だったものが今年から「契約をより速く、安全に」に変わっていることに、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。
営業が商談を進め正式に受注するまでの間には、時間を要する様々な手続きがあります。押印や郵送にかかる時間もその一つですが、それ以上に 所要時間の予測も回避も難しいのが、契約条件について協議し文書に落とし込んで合意する「交渉」プロセスにかかる時間 です。
最近はAI契約レビューツールも実用化され、法的リスクや有利・不利だけであれば一瞬でチェックし即座に相手に返せるようになってきました。また、交渉そのものを発生させないよう、自社契約書ひな形をPDFで編集できないようロックして相手方に送りつけたり、「利用規約に同意してクリックする」契約方式にしてしまうなどの“工夫”を追求する会社も、体感値としては増えている気がします。
しかし、そうして 相手方から提示された条件を譲る・譲らないの判断を行い、応答するのが人間同士である以上、交渉時間そのものがなくなることはありません。よほどバーゲニングパワーのある特殊な企業でもない限り、この契約交渉のやりとりにかかる時間を削減することは難しいのではないでしょうか?
法務担当者が抱く不安を払拭した上で同席依頼を
このような 【 交渉 → 結果の伝達と説明 → 契約書への落とし込み → 文書チェック → 再交渉 】によって発生するロスタイムを少なく したい。そう考える事業担当者が望むのは、法務担当者がはじめから交渉の場に同席してくれる ことだと思います。
しかしながら、特に日本企業同士の交渉場面では法務担当者が同席するケースはあまりみられないばかりか、依頼しても嫌がられることも少なくありません。これには様々な理由がありますが、法務人員が少ない中で自社のすべてのプロジェクトの契約状況を把握し、交渉に立ち会い、結果に責任を負っていてはいくらなんでも身が持たない、というのが正直なところでしょう。
そんな中で、どうしても同席してほしい契約交渉があった場合、どういった条件が揃えば法務担当者が気持ちよく同席してくれるのか?交渉同席を依頼された法務担当者が感じる不安や懸念はどう接すれば払拭できるかという視点から、注意点をリストアップ してみました。
(1)敵対的な状態で巻き込まない
法務担当者の役割が、相手の要求に対し法的リスクを指摘したり契約文言で回避しようとするものである以上、ただでさえ嫌われ役になりがちです。すでに敵対的な交渉となっているところに火に油を注ぐ発言をするのは、気乗りしないだけでなく、場の空気に遠慮をして本来言うべきことも言いにくくなってしまいます。
そうならないよう、大前提として、相手方と対等かつ友好的に話し合える状態で法務担当者を交渉の場に招き入れる ことが必要です。
(2)交渉背景について共有を漏らさない
「そんな話は事前に聞いてなかった」「聞いてたらこんな条件は出さなかった」は、法務担当者としては最も避けたい ところです。前回の取引で当社側が大きなミスをしていた・前回の会議で失言があったなど、交渉の情勢を左右するような背景があれば、きちんとインプットすることが重要です。
また、契約書に出てくるような難しい法律用語はわからなくても、それまでの商談から予想される主な論点については、現場なりには整理・予測をして法務担当者に伝えられるようにしたいところです。そうした情報が多ければ多いほど、法務担当者の交渉準備に要する時間や気持ちの余裕度が変わりますし、場合によって同席すら不要となることもあるはずです。
(3)ディールブレイクの責任を押し付けない
法務担当者が 指摘したリスクの回避案が見つからない場合、その指摘が鋭ければ鋭いほど、最悪ケースではディールブレイク(破談)になることも あります。
事業部門から交渉同席を要請した以上は、仮に契約条件に折り合いがつかずディールブレイクしたとしても、同席した法務担当者にその責任を押し付けないことは、最低限のルール・約束になります。
(4)ビジネスジャッジを求めない
「リスクに見合うよう契約金額を上げるから、損害賠償請求額の上限規定を外してほしい」といった交渉が入ったとき、その 契約金額がリスクを上回るかは、法的な判断ではなくビジネス上のリスク・リターンの判断 です。
こうした「ビジネスジャッジ」を法務担当者に求めても、普通は「リスクがある以上、上限規定は残しておいたほうがベター」という回答しかできません。仮に「それぐらいのリスクをとっても、私はいいんじゃないかと思うんですけど」と言ったとしても、その発言に依拠して結果リスクが顕在化したら逆恨みする、といったことのないように願いたいところです。
(5)交渉中に自社の手の内を相手に明かさない
交渉相手が面前にいるのに、事業担当者が法務担当者に 「たしかこの程度の法的リスクなら飲んでいいっておっしゃってましたよね?」とあっけらかんと問いただし たり、「そのリスクは事前の想定の範囲を超えて撤退ラインですよね?」と、事前の打ち合わせの内容を明かしてしまう ような会話をするのは、いうまでもなく厳禁です。
相手方から聞こえないよう会議室の外で相談するとか、いまどきはオンラインチャットという文明の利器もあります。同席しているからといって、相手に手の内を知られるようなコミュニケーションは慎むよう、配慮が必要です。
(6)英語屋扱いしない
法務担当者には、文系で英語が得意な方が配属されるケースも多いのは事実です。だからといって、外国企業との交渉となったとたん法務担当者をまるで「英語屋」として扱い、通訳・翻訳仕事の一切をやらせようとする方がいます。
契約のスキームや条件を精緻かつ瞬時に検討するだけでも、精神的・脳内キャパシティ的に余裕がないのが正直なところです。聞きなれないリーガルジャーゴン(専門用語)でも出てこない限り、相手との信頼関係構築や意思決定にかかわる外国語コミュニケーションは、そのプロジェクトの責任者が担う ことを原則としましょう。
(7)司会・プロジェクト進行係を丸投げしない
6とも似ているのですが、「契約交渉は法律に詳しい人の仕事でしょ」と、司会やその後のプロジェクト進行は法務にお任せという態度で丸投げする事業担当者がたまにいます。その調子で法務が全社のプロジェクトマネージャーを兼任することになったら、法務部門に人が何人居ても足りません(法務を大増員してこの責務を担わせるという経営方針もありうるとは思いますが)。
要所要所の進行は任せるにしても、上記3・4の責任分界点をクリアにしてきちんとバトンを渡し、法務担当者の役割が終わればバトンを回収 する、というけじめある態度は守ってほしいものです。
マナーと敬意をもって頼ってくれる事業担当者には法務担当者も協力を惜しまない
以上、同席を嫌がる法務担当者を動かすために注意しておきたい・配慮したい主なポイントをリストアップしてみました。
上図アンケートにもみられるように、交渉に対する不安から「法務担当者に同席をしてほしい(でもなかなか同席してくれなくて心細い)」という現場の声がある ことは、きっと法務担当者も自覚があることと思います。
事業担当者が法務担当者にへりくだる必要はまったくありません。その代わりに、法的リスクに対するセンサーと対応経験を蓄えた専門家に対する最低限のマナーや敬意をもって頼れば、普段は同席に気乗りしないという法務担当者もきっと協力してくれるはずです。
画像:kikuo / PIXTA(ピクスタ), freeangle / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
機能や料金体系がわかる
資料ダウンロード(無料)詳しいプラン説明はこちら
今すぐ相談