NO&Tで鍛え抜かれた「MNTSQ」—2020年夏企業向け販売開始


長島・大野・常松法律事務所と提携し、その法務デューデリジェンスによって鍛えぬかれたアルゴリズムが、ついに企業向けにも販売へ —創業前の準備期間を含めて3年かけて培ったノウハウとテクノロジーの秘密に、創業者へのインタビューで迫ります。

面白い仕事・優秀な人材が集まる場所にもまだ存在する単純作業の山

—Wantedlyなどに書かれている貴社の記事は拝見いたしまして、板谷先生が長島・大野・常松法律事務所でアソシエイトとして働かれながら、非効率や限界を感じて起業を決意されたといういきさつは拝見しましたが、本日はもう少し生々しいお話を伺えればと思い、お邪魔いたしました(笑)。

板谷
ありがとうございます。趣旨は承知しましたが、どこまで話せるでしょうか(笑)。

私はNO&T(長島・大野・常松法律事務所)で、主にM&A業務を中心とするローヤーとして働いていました。弊社の社外取締役を務める藤原総一郎弁護士から、IT領域の案件を任せていただくことが多かったです。

M&Aの中には、「法務デューデリジェンス(法務DD)」と呼ばれるプロセスがあります。M&Aの買収ターゲットとなる会社から提出された契約書をすべからくチェックして、 法的問題点を抽出する業務です。NO&Tはトップローファームだけに、大きな案件を突然任せていただけることもあるわけですが、買収ターゲットとなる会社の規模によっては、キングバインダー十冊分もの契約書が開示され、朝まで眠い目をこすりながらチェックすることもありました(苦笑)。

Founder / CEO 板谷 隆平 様
Founder / CEO 板谷 隆平 様

しかし、率直に言って、契約書の中からチェンジオブコントロール条項を探す仕事というのは、そこまで高度な法的専門性がなくてもできる仕事です。

逆に、どれだけ優秀な弁護士であっても100%全てのチェンジオブコントロール条項を検出できているとは限りませんし、実際に、法務DD業務の中で、若手アソシエイトにMNTSQのプロダクトを試験利用してもらったところ、一定の条項の検索や資料の分類については、彼らの精度を上回っていることが確認されました。

依頼者としても、チェンジオブコントロール条項のチェックはあまり高いコストをかけずに効率的に進めたいと考えている場合もあるように思います。

予備試験や法科大学院でもトップクラスの成績を納めてきた弁護士が集まるのがトップローファームです。それだけに、決して安くはないフィーをお客様から頂戴してそうした業務に携わっているわけですが、そういう事務所の優秀な弁護士が相応のフィーをいただいて時間を割くだけの価値がある仕事なのだろうかと、疑問を感じました。

—下積み・修行という意味合いもあるかと思いますが、トップローファームではそういう仕事は何年ぐらい携わることになるものなんでしょうか。

板谷
大体5年です。留学に出る前の、ジュニアアソシエイトと呼ばれる時代です。

念の為申し上げておきたいのですが、私はトップローファームの仕事は非常に面白いと思っています。お客様からは本当にエキサイティングな仕事をいただけますし、時にはスリリングな交渉にご一緒もできます。ともに働く先輩や同僚の能力も、当然に高いわけです。そんなところでも、こういう仕事が一部存在し、優秀な弁護士のリソースを必ずしも本質的な業務に割けていないという現実に、もどかしさがありました。

加えて、業務に関して蓄積された、事務所全体のナレッジがうまく承継されていないのではという問題意識も持ちました。ローファームはいわば分散的な組合組織ですので、相当意識的に仕組みを作らないと、ベストプラクティスが自然に承継されて誰もがアクセスできるというわけにはいきません。進化の連続性をもっと生み出せないかというもどかしさも感じました。

—ノウハウの共有という点では、私のような法務担当者からローファームに期待するのは、洗練された契約管理システムみたいなものがあって、トップローファームならではの究極の契約書ひな形集やベストプラクティスに関するデータバンクをお持ちなのかと思っているのですが。

板谷
一定以上の規模の法律事務所においては、ナレッジの集約を実現する努力をされていると思いますが、多くの場合には必ずしも上手く機能していないのではないかという印象を持っています。

一方で、NO&Tは、設立者である長島先生の理念のもと、「法律事務所全体が一体となってサービスを提供する」というカルチャーが強く、ナレッジマネジメントのフィージビリティが高い事務所だと思いますし、課題も認識していました。

NO&Tで鍛え抜かれたアルゴリズムを「外販」する

—さて、大手事務所の法務DDの課題を解決するサービスだということは私も存じていたのですが、日常の契約業務の課題を解決する一般企業向けのソリューションも提供される予定なのか、という点に興味があります。

生谷
はい、企業向けの契約書のドラフティング・レビュー・管理を包括的に自動化・サポートするサービスとして、一般販売も予定しています。来年の夏頃をめざしていますので、これからの数ヶ月はそこに向けてチューニングをしていきます。

Co-Founder / 取締役 生谷 侑太郎 様
Co-Founder / 取締役 生谷 侑太郎 様

—それは楽しみです。それでは少し立ち入った質問をさせてください。企業向けの契約書レビューサービスについて私もよく質問を受けるのが、「企業の契約書に含まれるノウハウが機械学習のいわば“エサ”たる教師データとして使われることを良しとしない企業もあるのでは」という点です。御社ではどのように考えていらっしゃいますか。

板谷
MNTSQのAI(機械学習アルゴリズム)は少し特殊であり、NO&Tと提携した準備期間を経ることによって、既に相当量の学習を完了しているんですよ。ですので、弊社のサービスに関しては、そういったご心配には及びません。

法務DDというのは、買収ターゲットが締結しているあらゆるタイプ・フォーマットの契約書をチェックしなければならない業務です。蓋を開けてみないとどのような契約書が出てくるかわからないのですが、そこで安定的に稼働するアルゴリズムをすでに稼働させているのが弊社です。

こういったアルゴリズムは極めて汎用性が高く、すでにどこに提供してもある程度ワークする状態ですし、個別のチューニングをすることでNO&Tに提供しているよりもさらに精度を上げることも可能であると考えています。

—そうしたNO&Tのノウハウが詰まった、完成されたアルゴリズムによるサービスがいわば「外販」されるという点について、NO&Tとして懸念はないのでしょうか。

板谷
私がNO&Tのマネジメントと協議しているなかで感じたこととして、彼らは今の機械学習技術にできることと限界を正確に把握した上で、弁護士と機械学習アルゴリズムはお互いを補完しあう存在だと認識しているのだと思います。

個別具体的に難しいところは洗練された法律家が処理をし、単純作業的なデータの整備や検索はテクノロジーで処理をする。そういうコンビネーションが成立すると考えて、私たちとの提携が成立しているのです。長期的な視座としても、「法律事務所も形を変えていかなければならない」と真剣に考えているんだと思います。

リーガルサービスのクオリティを追求するためにテクノロジーがある

—一般企業向けのソリューションの前提として、御社が提供するローファーム向け(法務DD)サービスの全容を、いまいちどご説明いただけますでしょうか。

板谷
MNTSQが提供する法務DDサービスメニューのうち代表的なものは、契約情報の解析です。資料をまとめてアップロードしていただくだけで、当事者名・契約締結日・ある特定の情報を持ってるか否かといったことが全部リスト化されます。 文字データを持たない写真 PDF であっても検索・解析ができます。

チェンジオブコントロールや競業避止義務など、契約書に潜む危険な契約条項をみつけてそれだけをリスト化する機能もあります。法務DDのレポートなどでよく見られるものですね。

また、M&Aでは、案件のスキームや対象会社の性質、たとえば公開会社か取締役会設置会社か否かなどに合わせて、対象会社に請求すべき資料が変わってきます。その資料請求のリストを、案件の性質に即して自動で作成することもできます。

そしてナレッジマネジメント機能です。 過去の法務DDで論点になったものや、それに関係する法律・通達・判例・参考書籍などを体系化し、デューデリジェンスレポートを書きたい部分の過去のナレッジに直接リンクすることができます。

—そこまでのものって、法律出版社が販売している法令・判例データベースでもなかなか実現できていないサービスですよね。予想していたよりもメニューが豊富でびっくりしています。御社のサービスの強みについてはどのようにお考えですか。

板谷
ありがとうございます。一般企業向けのソリューションにも通ずるものとして、私たちは「クオリティー」にとてもこだわっています。リーガルテックは今は「新しい技術」として社会に迎え入れられていますが、将来的には、弁護士と同じように、その「サービスの法的なクオリティー」が問われる時代が来ると思っています。

MNTSQは、NO&Tと協働することで、法的に最高のクオリティーでの機械学習プロダクトを提供していくことを目指しています。

もう一つが自然言語処理のテクノロジーです。PKSHA Technologyさんのような、自然言語処理技術において国内トップのソリューションを実際に提供している会社と提携し、最先端のテクノロジーを活用できるのは幸運だと思います。

Co-Founder / 取締役 安野 貴博 様
Co-Founder / 取締役 安野 貴博 様

—自然言語処理AIで強みをもつPKSHAとの協業のきっかけは?

板谷
実は、PKSHAの言語部門(BEDORE)のファウンダーが、弊社取締役である安野と堅山だったのです。その二人が当社に来てくれたのが大きかった。これほどまでに言語にヘビーに依存したサービス領域というのは、リーガルぐらいですので、そういう部分に面白みを感じてくれたようです。

生谷
PKSHAは、各ドメインで強いところと組んでそれぞれに自社のアルゴリズムをインストールしている戦略をとっておられますが、私どもと提携していただくことで、リーガル分野の自然言語処理の機械学習をもさらに進化させることができると思います。

Co-Founder / 取締役 堅山 耀太郎 様
Co-Founder / 取締役 堅山 耀太郎 様

今遅れている分野をサービスの力で着実に改善したい

—組織についても拡大中であるということでしょうか。

生谷
Wantedlyにも投稿しているとおりですが、強いシステムエンジニアさんに是非ジョインしていただきたいという気持ちで採用活動を進めていますね。

—技術分野でいえば、今後はどのような広がりを見込んでいらっしゃるのでしょうか。たとえば、ブロックチェーンを使ったスマートコントラクトなどは手をだされるのですか。

生谷
私は前職でブロックチェーンビジネスに携わったんですが、スマートコントラクトの実現可能性は高いとはいえないのではないかと思います。

ブロックチェーンでは、全員が同じプラットフォームに乗ることができるかが重要なポイントです。特定の法務執行、たとえば交通事故処理だけ特定のブロックチェーンプラットフォームに乗っかっているというコンセプトには無理があります。

加えて、プログラムを書くときには「情報閉鎖」をする必要があるのですが、法的なコンセプトをプログラミングするにあたっては、この情報閉鎖をするのが相当難しい。未来永劫変わらなくてよい価値や判断基準といったものを今決定し条件化することはできないからです。

—やはりスマートコントラクトは実現が難しいと。

生谷
ブロックチェーンやスマートコントラクトのような分野よりも、いま遅れている、やるべき分野をきちんとサポートし解決していく方向性を志向しているのが私たちです。 トリッキーな、飛び道具的なサービスを目指すのではなく、一歩ずつ着実にリーガルの仕事に役立つプロダクトを作ってきたいと思います。

そうした価値観に共感できる方に、ぜひドアをノックしていただきたいです。

(聞き手 橋詰)

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