トラストサービスWG最終報告書案に見え隠れする日本の「実印」の未来
EUをモデルに検討が進められていた、電子署名をはじめとする日本のトラストサービスの未来を占う最終報告案がまとまりました。さらなる活用推進に向けたタイムスタンプの法制化が決定される一方、eシールとリモート署名の法制化は先送りとなりそうです。
トラストサービスWG最終報告案まとまる
日本のトラストサービスに係る現状と課題を整理 すべく、2018年10月から15回にわたり開催された「トラストサービスWG」。
Society5.0の基盤として、誰からの/何からのデータであるかを確認する仕組みや、データの完全性を確保する仕組みとしてのトラストサービスが不可欠であると考えられる。
このため、「プラットフォームサービスに関する研究会」の下に本ワーキンググループを設置し、我が国におけるトラストサービスに関する課題を整理し、その在り方について、検討を行う。
—「トラストサービス検討ワーキンググループ」開催要綱 より
電子契約を支える根幹技術である「電子署名」技術の行く末を左右するかもしれない会議ということで注目をしていましたが、いよいよ、この 11月末をもって最終報告書がとりまとめ られます。
今回は、この最終報告書(案)から、日本のトラストサービスの数年後の未来を読み解いてみたいと思います。
ついに「タイムスタンプ」が法制化へ
何と言っても、有識者が1年間にわたりさまざまなテーマについて議論を尽くした中で、その 重要性が再確認されたのが「タイムスタンプ」 についてです。
クラウドサインによる電子契約でも、弁護士ドットコム名義の電子署名とは別に、一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(認定タイムスタンプ)がファイルに付与されます(ご参考:クラウドサインヘルプセンター「タイムスタンプとは」)
この認定タイムスタンプ、電子帳簿保存法の要件を満たすために財務省令(電子帳簿保存法施行規則)によって付与が求められているものなのですが、実は、この認定制度を裏付ける法律がないというウィークポイントがありました。
最終報告書ではこれを解消すべく、法律に基づく認定制度の必要性が明記 されることとなりました。
一方で「eシール」と「リモート署名」の法制化はいったん先送りに
その一方、法制化に言明したタイムスタンプに対する書きぶりと比較して、
・法人発信の電子文書の信頼性を担保する 「eシール」
・クラウド上で本人名義の電子署名をかける 「リモート署名」
この2つの技術については、明らかに法制化に二の足を踏んだかたちでの最終報告 となっています。
“電子版の「社判」「角印」”の位置付けを目指そうとした日本版eシールについては、そもそも紙上の社判・角印自体の法的位置付けが不明確である以上、それを電子化しようというeシールの法制化はさすがに難しいのでは?と、想定の範囲内ではありました。
しかしリモート署名については、WGの中でも物理的ICカード販売にこだわる一部の事業者以外、推進派の委員が多数派のように見えていただけに、事務局案の作文には奇妙な尻すぼみ感が否めません。
「未来の実印」のあり方を占う
邪推すれば、なんとかマイナンバーカードを普及させ、そこに格納された電子証明書を電子契約にも活用させられないか。そのためにはこのタイミングでリモート署名が広まるような動きは見合わせたい。そうした総務省の思惑やこだわりが見え隠れするように思われてしまうのですが、私の考えすぎでしょうか?
次世代の「実印」に、引き続きマイナンバーカードのようなローカルな物理性を求めるのか。
それとも、クラウド上での バーチャルな実印を認めフレキシブルにリモート署名できる世界の実現を目指すか。
このWGだけで決まることではないものの、世界で最後に残ったハンコの国である日本の未来を占う最終報告書となりそうです。
(橋詰)
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