YouTubeの対COPPA規約でユーザーが背負う責任
児童オンラインプライバシー保護法に基づく連邦取引委員会の指導に対応するため、Googleが子ども向けYouTube動画に対する規制を強化することに。その規約変更の影響について考察します。
跡形もなく書き換えられたYouTube規約—厳しさを増す年齢制限
Googleが、YouTubeにおける子どものプライバシーをより厳格に取り扱うための新しい利用規約を公開 し、12月10日よりこれを適用することをブログ他でアナウンスしています。
新しいYouTube利用規約を見てみると、
- 契約主体をYouTube LLCからGoogle LLCに変更
- YouTubeから子ども向け動画を切り出したYouTube Kidsを別サービスとして、取扱いを明確に分別
- 動画の審査・削除・アカウント停止権限を強化、救済措置としての再審査手続きについて規定
するなど内容面も一新されており、変更というよりも、子ども向け動画を取り締まるための権限強化のために作り直した新しい規約の強制適用措置 となっています。
また運用面においては、動画を投稿するクリエイターに対しては対象年齢に関する自己申告手続きを義務付けるとともに、公開済み動画についてAIを用いた対象年齢の自動審査を開始。おもちゃやアニメを話題にした動画やゲーム実況動画などは、無条件で子ども向け動画と判定されているようです。
そして、子ども向け動画にはパーソナライズド広告が配信されないことから、該当する動画のクリエイターにおいては、広告収入が激減するであろうことも警告 しています。
これらを受け、複数の有名ユーチューバーが、
「一方的な措置のせいで、これまで得られていた広告収入が得られなくなる」
「子ども向け動画のボーダーラインを判定しようがなく、創作活動が萎縮せざるを得なくなる」
と、懸念の声を上げ始めています。
COPPAが目指す児童オンラインプライバシーの保護レベル
Googleがこのような措置を取ることになったのは、COPPA(Children Online Privacy Protection Act 児童オンラインプライバシー保護法)に基づき、FTC(Federal Trade Commission 連邦取引委員会)から訴訟を受け、9月に成立した和解を受けてのもの でした。
和解にあたり、過去最大となる1.7億ドルもの和解金を支払うことになったことからも、FTCがこの問題を重要と捉えていることが伝わってきます。
FTCが児童保護を目的に市場介入を始めた歴史は古く、1934年のFTC v. R.F.Keppel Bro.Incがはじまりと言われています。これは、お菓子の景品として硬貨を付与したギャンブル的な販売手法を取り締まったものでした。
インターネットが普及しはじめた90年代後半、射幸心に弱い児童を狙って同様のサービスが現れたことを懸念した議会が、13歳未満の子どもを保護対象としたCOPPAを提案し、たった数ヶ月で成立させることに成功しました。同法により、児童を対象としたオンラインサービス事業者は、
- データを受け取るすべての者を特定して明記した明確なプライバシーポリシーを掲載
- 子どもからデータを収集する前に保護者からの同意を取得
- 保護者に収集した情報を閲覧させ、異議申し立てを可能とし、その情報を第三者に提供することなくサービスを提供
- データの収集量を限定
- データの保持期間を限定
する義務を負うこととなります。
この法律によって 米国でオンラインサービスを行う際は、事実上 ①完全に子ども向けサイトとしてCOPPAの適用を受け遵守をするか、②13歳未満の利用者を制限してまったくCOPPAの適用を受けないようにするかのどちらかの選択肢しかありません。動画配信というビジネスで捉えると、プラットフォーマーであるGoogleはもちろん、それらを用いる動画配信者もこの責任を負う主体となります。
しかし、こうしたゼロか百かの選択を迫り重い義務を課す硬直的な規制手法については、実務家や専門家からの批判も少なくないところです。
ユーザーの自助努力・自己責任に依存したGoogleのCOPPA対応は十分と言えるか
今回のGoogleの対応は、13歳未満もそれ以上もごちゃ混ぜになってしまっていたサービスである「YouTube」から、COPPAを遵守するために新設された「YouTube Kids」に13歳未満ユーザーを切り出すことを企図した措置であることは明らかです。しかし、その手法にはやや強引さも感じられ ます。
有名ユーチューバー瀬戸弘司氏も動画(子供向けコンテンツの規約変更で、僕が心配していること。)を通して疑問を呈していますが、クリエイターが制作したある動画について、それが子ども向けと呼べるのかどうかはクリエイターの主観で決まるものではないにもかかわらず、切分けの責任をクリエイターに一方的に背負わせている からです。
そしてもう一点、そもそも視聴者が本当に13歳以上か未満か自体、ユーザー(およびユーザーの保護者)の自己申告に委ねられている という弱点もあります。
おそらくGoogleの言い分は、
「利用規約に記載のとおり、13歳未満の児童には『YouTube』を利用させず、クリエイターが制作した子ども向け番組のみを集約する『YouTube Kids』を利用させている」
「YouTube Kidsは、児童のプライバシーを侵害するような情報の取得も広告の配信もできないように設計されている」
というものになるのでしょう。そして、年齢を偽って大人向けに制作された動画や広告にアクセスした児童がいたとしても、それは当社の責任ではなく、クリエイター・児童自身・そして児童の親の責任であると。
COPPAがプロからも批判されるいわば「悪法」であるとしても、対応の重要な部分を利用規約とそれを読んだユーザー(クリエイター・視聴者・その保護者ら)の自助努力・自己申告に委ねる手法がどこまで認められるのか。Googleの一連の対応に対するFTCの評価を待ちたいところです。
(橋詰)
機能や料金体系がわかる
資料ダウンロード(無料)詳しいプラン説明はこちら
今すぐ相談