マンション管理組合総会の議決権行使書は電子化できるか
1対多で取り交わす法的文書の発送やその取りまとめ、そして回収の進捗管理は、郵送等の事務作業量もさることながら、ミスが無いようにと神経をすり減らすものです。そんな場面でも、電子契約サービスがお役に立てる場合があります。
契約に限定されない電子契約サービスの利用用途
最近、電子契約の利用可能範囲について、法人間契約に限らず、対個人の法的文書に関する利用例についてもお問い合わせを多く頂くようになりました。マス向けのテレビCMやYouTube広告を開始した影響もあるかもしれません。
その一つに、こんなお問合せがありました。
「マンション管理組合の総会での議決権行使書の取りまとめについて、お伺いしたいと思います。
管理組合の総会運営では、多数の方に資料を配布し、議決権行使書を取りまとめる作業が発生します。
クラウドサインでは不動産関連でも多くの実績をお持ちとだと聞きますが、クラウド型電子契約サービスを使って、低コストで確実に遠隔地の区分所有者の権利行使を行わせることはできるでしょうか?」
確かに、マンションのオーナーには、購入後居住用として自分で住む方もいれば、賃貸物件として他者に貸し出す方もいらっしゃいます。後者の場合、マンションは都市部にあっても、オーナーは遠方に住んでいるというケースも少なくないでしょう。オーナーの持分につき、相続があった場合なども同様です。
そうしたオーナーが多いマンションでは、資料配布や議決権行使書の回収が必要となってきます。一般に個人相手に送付した文書は、平日はお仕事が忙しく開封されないまま放置され、週末を迎えればその存在を忘れられたりもして、とにかく回収までに時間がかかるもの。
戸数にもよるかもしれませんが、書面を印刷して郵送するだけで終わらず、さらに忙しいオーナーに電話をかけて提出を督促して・・・といった事務作業を行うのは、あまり賢い方法とは言えなさそうです
区分所有法が定めるマンション管理組合総会の議決権行使方法
マンション管理組合の総会の議決を規律しているのが区分所有法という法律です。その39条には、このような条文が定められています。
区分所有法
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
3 区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。
2項には確かに、「議決権行使は書面によるべし」という原則が規定されていますが、その直後の3項をみると、法務省令に定める電磁的方法によっても行使できる旨の例外が定められています。
この39条3項でいう「法務省令」にあたるのが、区分所有法施行規則第3条です。
区分所有法施行規則
第三条 法第三十九条第三項に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの
二 第一条に規定するファイル【編集部注:磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイル】に情報を記録したものを交付する方法
2 前項各号に掲げる方法は、受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない。
少し読みにくい条文ですが、電子化するにあたっての法的要件をまとめると、
条件その1:
電磁的方法として、次に掲げる(いずれかの)方法をとること
(1)送信者のコンピューターからインターネットを通じて受信者のコンピューターにファイルとして保存させる
(2)磁気ディスク等にファイルを保存して物理的に渡す
条件その2:
上記(1)(2)どちらであっても、それを書面として印刷できるようにすること
この2つの条件を満たしていることが必要、となります。
区分所有法の建て付けは下請法とほぼ同じ
さて、この区分所有法と区分所有法施行規則の条文を見て、どこかで似たような条文に触れた記憶がある方がいらっしゃるかもしれません。
それもそのはず、本メディアでもご紹介している下請法第3条2項と下請法3条規則2条の関係と似たような構成・条件の定め方になっているのです。
下請法
第三条 (1項略)
2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。下請法3条規則
第2条 法第3条第2項の公正取引委員会規則で定める方法は,次に掲げる方法とする。
一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し,受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し,当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法(略)
二 磁気ディスク,シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法
2 前項に掲げる方法は,下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。
下請法でも書面の電子化は認められており、クラウドサインのような電子契約サービスによる交付が可能となっています(なお、下請法の場合は下請事業者の承諾が必要。参考記事:下請法の義務と3条書面の電子化実務)。
多数当事者の法的文書取り交わしにも電子契約は有効
以上をまとめると、区分所有法および区分所有法施行規則で電磁的な議決権行使が認められており、要件を満たす電子契約サービスであれば、多数当事者が関わるマンション管理の議決権行使プロセスを電子化することは可能 です。
クラウドサインであれば、議決権行使書を区分所有者に一括送信でき、受信した区分所有者は面倒な登録手続きも必要なく、チェックボックス機能等を使ってかんたんに賛否の行使と返信ができます。行使した議決権の記録には電子署名が付与され、改ざんできない状態でクラウド上に保存されます。
また単なる電子メールでの送信・回収と異なり、検索も容易になるほか、各区分所有者が送信した資料を開いたか・議決権行使を完了したかのステータスも管理することができます。
円滑な組合事務のお役に立てれば幸いです。
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