Lawboxを作って分かった弁護士にとって今必要なリーガルテック


企業法務向けに偏っていた日本のリーガルテック市場にも、法律事務所向けのサービスがいくつか立ち上がってきています。そのうちの一つ、Lawboxにインタビューに伺いました。

事務所内の情報を集約したいという思いからスタート

—7月に公開した「日本のリーガルテックカオスマップ」をご覧になってお問い合わせをいただきました。ありがとうございます。

梶様
Lawboxを企画・設計している弁護士の梶智史です。本日はよろしくお願いします。

柳瀬様
私は株式会社スカイクリエイツ代表取締役の柳瀬善喬と申します。Lawboxの企画、設計、開発を担当しています。

梶智史弁護士(左)、柳瀬善喬氏(右)
梶智史弁護士(左)、柳瀬善喬氏(右)

—Lawboxは弁護士業務のサポートツールということなのですが、お二人がこれを作ろうと思われたいきさつから、お伺いしてもよろしいでしょうか。


もともと私と柳瀬は同郷でして。県人会で会う中で、何か一緒にやれるネタはないか?とよく話しをしていました。

私自身、法律事務所を経営する弁護士として、自分の事務所内の情報集約ができていないという悩みがありまして、ではここから手をつけてみようと考えました。

生産性向上・業務効率化が本来のリーガルテックのめざすべきところですが、情報集約ができていないということは、それ以前の問題ですから。

—弁護士の先生方は、整理整頓がお得意のように見えますが、そういう方ばかりでもないと。


個々人ではシステムを組んで管理している方もいるかもしれません。しかし、お恥ずかしい話ですが事務所という組織で俯瞰して見てみると、

  • どういう依頼者が何人いて、彼らの連絡先がどこに保存してあるかが統一されていない
  • ある依頼者から事務所に電話がかかってきたら、自分以外の弁護士はどう対応すればいいかわからない
  • いつまでに何をやればいいのかも事務所として把握できていない

これらが普通の状態になってしまっているのが、弁護士業界の実態ではないかと私は感じています。

依頼者単位で事件書類をすぐに探せる「当たり前」機能から順次作成

—では、さっそく画面をお見せいただけるでしょうか。


基本的には、依頼者単位で基本情報を入力・検索し、事件書類にすぐにたどり着けることを目指しています。現在はまだシンプルな画面で恐縮です。

柳瀬
海外で成功している法律事件管理システムは多少参考にしました。それに加えて、ウェブ管理・プロジェクト管理で定評のあるBacklogを意識したところがあります。


ジュニアなアソシエイトや事務員を教育するコストにも課題感は抱いていました。簡単な訴訟手続の書類を作る際に、アソシエイトが実務書と首っぴきになってまっさらなWordファイルから文書を作成する姿を見かけると、非効率な仕事の仕方だなあと思わずにいられません。

—Lawboxで書類の作成もできるんですか?


ええ。AIを使って自動的に作文とまではいきませんが、Lawboxにいれた情報が、あらかじめ書式化されたWordファイルに差し込み印刷されるイメージです。

こうしたWebフォームに沿って見たまま入力すれば、必要な情報が入力された書類がWordで出力されます。仕組み化してしまうことで、教育コストもかからなくなります。

また、このようにして作成したWordファイルが一つのシステムの中に入っていれば、当然に事務所内の情報共有もスムースになりますよね。

お客様に良かれと思った機能が意外に喜ばれない

—画面左側のメニューをみると、チャット機能もあるんですね。Slackなどチャットツールでの即時性のあるコミュニケーションを求めるお客様が増えている、ということでしょうか。


私たちも喜んでいただけるだろうと思って、試しに実装してみました。しかし、いざクライアントに「チャットで遠慮なくご連絡ください」とご案内しても、なかなか使ってくださらないんですよ。なのでこの機能はなくすことも検討しています。

—それは意外ですね。チャット対応はそれほど魅力にならないと。クラウドのセキュリティに懸念を抱いていらっしゃるのでしょうか。

柳瀬
セキュリティの問題ではなさそうです。LawboxのためにISMSも取得して、安全性には注意を払っていますし。


クライアントいわく「わざわざここにログインしてチャットしているような暇はない」ということのようです。

クライアントのオフィスにお邪魔して、「こうですよ、楽でしょ?」というオリエンテーションでもしないと、使ってくれるようにはならないですね。そこの一手間をかけるのが、今の人員体制ではまだ難しいのが正直なところです。

ーSaaSの業界では「オンボーディング」と言ったりしますが、最初の背中を押す教育の一手間がどうしても必要ですよね。ここまでたどり着くのに、そのほかどんな苦労がありましたか

柳瀬
Lawboxに関しては3年がかり、すでに3回作り直していいます(笑)。作りながら実際に触ってもらい、修正してというサイクルを繰り返してきました。その度に、「弁護士の皆さんやその先のクライアント様が求めているのは、そこじゃなかったんだ」という発見がありますね。

市場の評価をいただいてアクセルの踏み方を考えたい

ー法務省や裁判所が、裁判手続き等のIT化をすすめようとしています。法律事務所と裁判所、そしてクライアントとのコミュニケーション手段も変わっていくのでしょうか。


裁判所との連絡でいえば、たとえば、faxでの連絡が必須になっている部分でLawboxをつなげられたらいいな、というのはあります。

たとえば、いちいち裁判所にFAXしなければならない書類である「期日受書」があります。今はLawboxで自動作成した後、Wordに出力してわざわざ印刷し、さらに職印を押してFAXするというフローになっています。これも、Lawboxから直接連絡できたらいいですよね。

弁護士会もFAX連絡が多いので、つなげられたらそれだけでもかなり楽だと思います。

ー資金調達をして会社を大きくしていく計画はお持ちなのでしょうか。


VCさんとはお話ははじめています。弁護士の起業家に対しては、「弁護士バッヂを外せるか」と迫ってくる方もいらっしゃるようです。退路を断ち経営に集中する覚悟が求められるということです。

本格的なセールスはこれからなので、市場の反響を見極めながら、私たちもアクセルの踏み方を考えたいと思います。

(聞き手:橋詰)

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