タブレット上のサインが法的証拠として認められる条件
iPadのようなタブレットを使い、デジタルなサインをする新しい意思表示の方法。ハンコによる押印やペンで書く署名とは違う新しい意思表示の方法が法的な証拠としての価値を勝ち得ていくためには、何が必要となるのでしょうか。
現時点では法的な裏付けのないタブレット上のサイン
小売店でのクレジットカード決済時や宅配便の受取確認時など、企業が顧客に対し、タブレット上でデジタルサインをするよう求める事例が増えています。
ところが、こうした タブレット上のデジタルなサインが意思表示の証拠として直ちに有効と認められるかどうかは、現時点では定かではない、という問題があります。
法令名で検索すると、「電子署名法」がそのために作られた法律のようにも見えます。しかし、電子署名法施行規則に定められた基準を見ると、
第二条 法第二条第三項の主務省令で定める基準は、電子署名の安全性が次のいずれかの有する困難性に基づくものであることとする。
一 ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である千二十四ビット以上の整数の素因数分解
二 大きさ千二十四ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算
三 楕円曲線上の点がなす大きさ百六十ビット以上の群における離散対数の計算
四 前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの
こうした暗号技術を用いることを前提としており、単にスタイラスで書いたサインを画像として保存するだけでは、少なくとも電子署名法による推定効を得ることはできなさそうです。
また、一般的な署名の推定効を規定した法律として、民事訴訟法228条4項がありますが、
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
ここにいう「署名」の定義にタブレット上のサインも含まれるかについて、一部実務家から含まれるとする意見があるものの(参考記事:タブレットへの電子サインは法律上の「署名」にあたるか、下記参考書籍ほか)、この点につき争われた裁判例は現時点では見当たりません。
花押を意思表示と認めなかった最高裁のメッセージ
人が手書きをした文字について、その法的証拠力が具体的に争われた最近の事例はないか?
探してみると、署名の代わりに用いる記号としての「花押」を書き込んだ遺言書の有効性が争われた最高裁判例 がありました(最判平成28年6月3日判タ1428号31頁)。
本件では、Aが所有していた土地について、Xが、「Aから遺贈を受けAとの間で死因贈与契約を締結した」と主張。しかしAが作成したとされる遺言書には印章による押印がなく、以下のような花押が書かれていた、という事件です。
こうした花押を書くことが、自筆証書遺言の要件を定めた民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われましたが、これに対し最高裁は
我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。
と判示し、これを認めませんでした。当時このニュースは、認印(三文判)でも有効な遺言書において花押が認められないとは…と、一部で話題にもなりました。
花押というと、よく歴代総理大臣が閣僚署名で書く立派な花押が例に挙げられるように、それなりに学や社会的地位のある人物があえて真似されにくいデザインで書くもの。英米圏での署名用のサインとなんら遜色ないように思われます。
しかし 最高裁のメッセージは、日本において花押にハンコや署名のような法的な効果を認めるには、「慣行ないし法意識」が必要だ、というもの だったのです。
「クラウドサインNOW」で日本の慣行と法意識を作る
直筆のサインに近い文字やマークによっても、法的効果をかんたんには認めてくれない日本の裁判所。こうした実情も踏まえ、クラウドサインが店舗経営のデジタル化を目指してこの秋より販売をスタートした新サービス「クラウドサインNOW」では、本人確認書類を取り込み、直筆サイン画像を含めて クラウドサイン送信をすることで電子署名・タイムスタンプを施し、安全策を講じられるよう実装 しています。
一方で、先ほどの最高裁のメッセージは、裏を返せば、日本において、タブレット上のデジタルなサインをもって「私はこの文書の内容を確認した」とする慣行ないし法意識が確立すれば、そうした法的効果を認めることはある、ということも意味しています。
冒頭でも例に挙げた通り、タブレット上のサインをもって本人を確認し意思表示とする身近な実例は確実に増えています。私たちがクラウドサインNOWのご利用を拡大し、店舗における申し込み・対面契約での慣行をさらに増やし、タブレット上のデジタルサインが直筆サインや認印(三文判)に代わる法的意思表示の手段となる未来を作っていきたい と考えています。
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