リーガルテック投資のための予算を確保する方法


リーガルテックを導入したくても、管理部門の限られた予算をそこに割り当てるのは現実的に厳しい。そんな悩みをお伺いすることは少なくありません。では、実際に導入を決定している企業は、どのようにリーガルテック投資予算を確保しているのでしょうか。

コストセンターである管理部門ならではの悩み

法律に関わる面倒で時間のかかる業務を、テクノロジーによってかんたん・スピーディにするリーガルテック。企業の中でこうしたプロダクトにいち早く興味をもっていただくのは、法務・総務・経理部門といった、管理部門のご担当者であるケースが多いと思います。

そうしたコストセンターとしての管理部門の皆様からよくお伺いするお悩みが、「リーガルテックのような、新しい分野に投資するための社内予算の確保が難しい」 というお話です。

契約・受注に直接関わるクラウドサインクラウドサインNOWのようなプロダクトであれば、「売上計上までのリードタイムが**日短縮できます」といったプロフィットアプローチの訴求もできるかもしれません。実際、最近はリーガルテックとしてではなく、営業に貢献するテクノロジーとしてのセールステック文脈でご採用を決定いただくケースも増えてきています。

転記作業等を不要にし売上の早期計上等につながるセールステックとしてのクラウドサインNOW
転記作業等を不要にし売上の早期計上等につながるセールステックとしてのクラウドサインNOW

しかし、事務作業を不要または削減する通常のリーガルテック導入場面では、「これまでの業務にかかっていた人件費・通信費・待機時間コストが削減できます」といったコストアプローチ を採用せざるを得ません。しかしこれでは、法務の業務量が普段見えにくいだけに、社内からの理解も得られにくいのが現実 です。

地道なコストアプローチは大切だが、それだけでは投資予算は確保しにくい現実も
地道なコストアプローチは大切だが、それだけでは投資予算は確保しにくい現実も

このような状況で、実際に導入を決定している企業は、どのようなロジックでリーガルテック導入に向けた予算を確保し、社内承認を得ているのでしょうか。

「法務コスト削減策」として訴求するのは得策ではない

まず認識をしておくべきは、リーガルテックの導入にあたって「法務業務のコスト削減」を訴求し予算を確保しようとするのは、あまり現実的ではない という点です。

下表は、公益社団法人商事法務研究会と経営法友会が2016年に実施した、法務部の予算に関するアンケート結果の一部です。

『会社法務部【第11次】実態調査の分析報告』(商事法務, 2016)P103
『会社法務部【第11次】実態調査の分析報告』(商事法務, 2016)P103

この表では、資本金の額を基準とした企業規模別に、法務部門が計上する年間予算の平均額が集計されています。

「弁護士関係」として計上されている法律業務の外注予算が突出して高額であり、いずれの企業規模においても法務予算の約50%を占めている ことがわかります。この内訳としては月額数万〜数十万の顧問料をはじめ、突発的な訴訟等の法的紛争解決コスト、M&Aデューデリジェンス費用などが挙げられます。しかし、現状のリーガルテックは、この領域を完全に代替するまでにはいたっていません(技術的に代替可能であっても、この領域は日本においては弁護士法に抵触する可能性もあり、リーガルテック事業者側が慎重にならざるを得ないという問題もあります)。

そうなると、残る予算枠は旅費交通費・図書費・備品消耗品・飲食交際費・教育費となりますが、費目や計上金額を見てもわかるとおり、ほぼ人数見合いの費用が積み上げられた微々たるものに過ぎず、これらを削ってリーガルテックのための予算を捻出するのは難しい だろうことが見てとれます。

もともとの法務部門という組織の成り立ち・設置の動機自体が、「外部の弁護士に委託していた法律業務を内製化し、体制強化とあわせコスト削減する」目的であることがほとんどで、人件費以上の予算を積極的に割り当てられることはない実情に照らすと、法務部門から起案して予算枠を確保するのは、どうしても長い期間をかけての社内交渉が必要になってしまうわけです。

情報システム部門を早期に巻き込み予算を確保できるかがポイント

こうした中、実際にリーガルテックの導入に成功している企業にその予算捻出の方法をお伺いすると、法務部門ではなく、情報システム部門に主体となってもらい予算を確保した という経験談をよく聞くようになりました。これは、経営課題としての生産性向上、特に近年の働き方改革に引きつけた業務のIT化要請を背景にしたものです。

それが功を奏する具体的な証拠を見てみましょう。以下は、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が1103社にアンケートし、今年4月に公表した「企業IT動向調査2019」の一部です。

JUAS「企業IT動向調査2019」P31
JUAS「企業IT動向調査2019」 https://juas.or.jp/cms/media/2017/02/it19_ppt.pdf 2019年8月16日最終アクセス

業務のIT化が叫ばれるようになって十数年経ちましたが、IT予算のDI値はこの10年でみても最高の数値 となっており、企業経営者のIT投資に対する意欲は高まる一方なのです。

さらに、その中で「重視すべきテクノロジー」として注目されているものとして、「AI」「RPA」「IaaS/PaaS/SaaS」といった、リーガルテックと親和性の高いキーワード が高ランク帯に並んでいます。

JUAS「企業IT動向調査2019」P28
JUAS「企業IT動向調査2019」 https://juas.or.jp/cms/media/2017/02/it19_ppt.pdf 2019年8月16日最終アクセス

同レポートによれば、これらの重視すべきテクノロジーが選ばれた理由として「生産性の向上」の割合が高いとのこと。あわせて、2000年代のIT投資の減価償却が一巡しシステムの入れ替え・更新タイミングを迎えるにあたり、オンプレミスからクラウド(PaaS/SaaS)に移行するニーズが強いことも、追い風となっています。

クラウドサインでも、情報システム部門が主導し導入に至った事例をご紹介していますが(参考記事:スクウェア・エニックス様導入事例)、リーガルテック投資を実現したい法務・総務部門としては、早期に社内情報システム部門を巻き込んで導入プロジェクトの主体となっていただき、全社の生産性向上というストーリーに乗せたプレゼンテーションができるかがカギとなりそうです。

画像: makaron* / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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