守りのガーディアン型法務から攻めのパートナー型法務へ変革する方法—契約アナリティクス応用編
契約書リスクを一元管理して満足するのではなく、法務部門が新たな存在意義・付加価値を発揮していくには?契約情報という「武器」を事業部門の前線に供給する具体的手法の一例をご紹介します。
武器としての「契約アナリティクス」応用編—契約交渉に変革を促す攻めの法務へ
前回の記事「契約書データベースで管理すべき20の契約項目—契約アナリティクス入門編」では、経営に役立つ契約書の分析を行う下地を作るために、法務部門が管理すべき主要項目を20ピックアップしてみました。
これをしっかりとやりきれば、少なくとも全社リスクの概要把握は可能となり、会社の「守り(ガーディアン機能)」を担う法務部門としてのスタートラインに立ったと言ってよいでしょう。
しかし近年では、リーガルリスクの複雑化・多様化を背景に法務部門への期待はさらに高まり、ガーディアンとしてだけではなく「攻め(パートナー機能)」をも期待されている現状 があります(経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」より)。
法務にとっての「攻め(パートナー機能)」とは何か?まさにこの研究会でも議論がなされているところではありますが、クラウドサインでは、情報という武器を事業部門に提供し、日々の契約交渉を活性化・サポートすること を提案したいと考えています。
契約交渉の鉄則「BATNA(バトナ)」
契約交渉に勝つにはどうすればよいか?。 これは「交渉学」という学問が成立するぐらい、答えのない難しい問いです。
一方で、こうした交渉学や交渉ノウハウについてまとめられた文献において、共通して指摘されているセオリーがあるのも事実です。その代表的なものが、BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement バトナ) と呼ばれるセオリーです。
つまりバトナとは、目の前の交渉相手と合意する以外にいくつかの選択肢(Alternative)があったときに、「交渉相手に、私はあなたと合意しなくても別の良い選択肢があるので、それよりも良い条件でなければ合意しない」と宣言できる他の選択肢ということになります。(瀧本哲史『武器としての交渉思考』(星海社,2012)P141より)
BATNAが事前に用意できれば、確かに契約交渉は有利に進められそうです。しかし問題は、豊富なビジネス経験や発想力を持ち合わせないと、一般的にはこの「BATNA」を見い出すことは難しい、というところにあります。
ですが、契約の世界においては、ほとんどの取引に存在するBATNA が実はあります。それが、
- 契約期間が満了すれば更新しない自由がある(契約締結の自由)
- 新たな契約相手を選ぶ自由がある(相手方選択の自由)
の2つ。これらは改正民法521条1項で 「契約自由の原則」として定められるほどの、基本的かつ最強のBATNAです。
賃貸借契約を例に挙げれば、賃料相場がその地域ごとに常識的な水準に落ち着くのは、空室物件の数だけ無限にBATNAがあり、2年ごとに契約更新がされているからこそです。一方、賃料相場を自ら手足を動かして調べなければ、実はその付近の住人で一番高い賃料を支払っていた、ということにもなりかねません。
事業部にBATNAを供給し契約更改交渉をサポートする
クラウドサインでは、法務部門が事業部門に対してこの契約情報というBATNAを積極的に供給することで、会社の利益創出エンジンとしての役割を担うことができる と考えています。
かんたんな一例を挙げてみましょう。クラウドサインSCANで紙の契約書を含めた契約データの一元化を行えば、更新期限が到来する前の任意のタイミングで管理者にアラートを送る機能が利用できます。
これまでの守りのガーディアン型法務部の発想でこの機能を利用すると、「そろそろ契約が切れるようですから、忘れずに更新を」と事業部にアドバイスして終わりです。もちろん、契約漏れのリスクの目を潰したという意味では、会社に十分に貢献していると言えるかもしれません。
しかし、ここで法務部門がもう一歩踏み込み、こんなアドバイスができたらどうでしょうか。
貴部にはxヶ月後に更改のタイミングを迎える契約がn件あります。y年前に当社前任者と契約トラブルもあったようです。同業他社との相見積もり含め、早めに更新契約の条件交渉を開始してはいかがでしょうか?同じような製品を開発している当社取引先を取引実績金額順に抽出したリストもこちらにあります。よかったら参考にしてください。
こうしたアドバイスの結果、事業部が定期的に契約内容と取引先を見直し、契約交渉を優位に進め、それによって仕入れコスト削減やライセンス収入アップが実現できれば、法務部門がきっかけとなって創出された利益と言っても過言ではない でしょう。
契約書管理業務をリスク管理に終わらせず、BATNAという「武器」を生産し、戦場の最前線にいる事業部に能動的に送り込めるようにすること。これもクラウドサインがユーザーのみなさまと目指す「契約アナリティクス」の未来です。
画像: zabelin / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
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