SaaS・サブスクリプションビジネスの利用規約—Y Combinatorひな形の全体構成
長期継続的な取引を前提とするサブスクリプションサービスが、日本においても増えています。Y Combinatorが公開する契約ひな形を教材に、SaaS利用規約の特徴とリスクを分析してみましょう。
SaaS・サブスクリプションビジネスを契約観点から分析する連載スタート
2018年、日経新聞が「SaaS元年」と報じるまでに認知拡大し、日本でも急激にその数を増やしたSaaS・サブスクリプションビジネス。クラウド上でソフトウェアを提供し、利用期間や利用量に応じた定期課金方式で長期継続的に取引を行うものを言います。
個人を対象に無料もしくは広告収入のみで運営されることが多かったBtoCのウェブサービスと比較すると、法人を対象に有料かつ継続利用を前提とするBtoB SaaSの契約・利用規約を作成する際は、契約条件の設定に神経を尖らせる必要があります。
たとえば、
- サービス品質やユーザーサポートをどこまでコミットするか
- 料金の値上げを行う際、契約上どうこれを整理するか
- サービスを停止した際の損害賠償責任をいかに合理的なものにするか
といった点は、事業者として慎重な検討が必要になるはずです。
ところが、BtoCのウェブサービスと異なり、ネット上で契約条件を公開するSaaSが限られていることから、このテーマについての分析があまり多くない現状があります。そこで本メディアでは、SaaS・サブスクリプションビジネスの利用規約の事例について、連載形式で分析を行ってみたいと思います。
入門編ではY Combinatorが提供する「SaaS販売販売契約ひな形」を教材に
個別企業の事例分析に取り組む前に、「入門編」として、Y Combinatorが公開する「Template Sales Agreement(SaaS販売契約ひな形)」を教材に、SaaSの基本的な契約の構成や個々の契約条件の設定について、適宜日本語に訳しながら分析 します。
Y Combinatorは、創業直後の起業家に少額投資し短期育成を行う「シードアクセラレーター」と呼ばれるタイプのベンチャーキャピタルです。ストレージサービスのDropboxや決済サービスのStripeも、ここから巣立ったサブスクリプション型サービスです。
彼らは、多くのベンチャー起業家を支援するプログラムの一つとして、立ち上げ初期に必要となるであろう様々なマニュアルや財務・法務文書のひな形をオープンソースで公開しています。この「Template Sales Agreement」も、その中の一つとして提供されているものです。
一般的なSaaS販売契約の全体構成と形式面の特徴
今回は手始めに、SaaS販売契約の一般的な構成と契約形式を確認してみましょう。
Y Combinatorのひな形を見てみると、以下のような構造で構成されています
SAAS SERVICES ORDER FORM(サービス申込書)
SAAS SERVICES AGREEMENT(サービス契約書)
└ TERMS AND CONDITIONS(利用条件)
└ EXHIBIT A Statement of Work(添付A:サービス仕様)
└ EXHIBIT B Service Level Terms(添付B:サービスレベル条件)
└ EXHIBIT C Support Terms(添付C:サポート条件)
そして、サービス契約書の冒頭署名欄の直上に、アンダーラインで強調した形で以下の記述があります。
This Agreement includes and incorporates the above Order Form, as well as the attached Terms and Conditions and contains, among other things, warranty disclaimers, liability limitations and use limitations.
この契約には、上記申込書の内容および保証の否認・責任の限定・使用に関する制限について書かれた添付の利用条件が含まれています。
契約するユーザーは、「サービス契約書」に紐づく利用条件とEXHIBIT A〜Cを確認した上で、「サービス申込書」に記入した条件をもって署名し、契約を申し込むという構造 になっています。実際のSaaSの契約書でも、こうしたスタイルをとる事業者がほとんどです。
BtoCの利用規約と大きく異なる特徴として、「利用規約にクリックして同意」するスタイルではなく、このように「所定フォームに記入の上、署名(押印)して契約」するスタイルが圧倒的に多いことが挙げられます。
これは、ユーザーが申し込むプランによって利用料金等が異なることに加え、契約期間が長期となりかつ多額のサービス利用料を徴収することになる以上、法的紛争となった際に契約の成立について争いが起きないように、簡易なクリック同意ではなく署名(押印)を確実に確保しておきたい というSaaS事業者側の思惑が強く出ている部分です。
次回以降、TERMS AND CONDITIONS(利用条件)の各条項について、分析をしていきます。
画像: den-sen / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
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