「署名のないクレジットカード」というAppleの再発明
Appleがクレジットカード事業に参入。携帯電話の入力方法から物理キーボードを完全に無くしたように、決済から署名(サイン)を完全に無くそうという大胆な提案がそこにはありました。
iPhoneを核とした電子決済を強化
2019年3月26日(現地時間3月25日)、Appleがクレジットカード「Apple Card」サービスを今夏から開始することを発表しました。
- iPhone上の操作で数分で発行
- 買い物金額の2%が「Apple Cash」としてiPhone上のバーチャルカードに還元(Apple Storeでの買い物は3%)
- 年会費、支払い手数料、遅延手数料、国際決済手数料なし
- Apple CashはApple Payで利用したり、iMessageで送金したり、Apple Cardの支払いに充当が可能
- Apple Mapのデータや機械学習により店名やカテゴリーごとに支出を整理・可視化
- iMessageによるチャットサポート
という、これまでのクレジットカードの「遅い」「面倒」「コストがかかる」というユーザーのペインをすべて解消しただけでなく、決済ごとにダイナミック(動的)にセキュリティーコードを発行し、Face IDやTouch IDの認証によって安全に決済ができる とアピールしています。
「署名欄のない物理カード」を発行することの意味
ここまでの内容だけでも、クレジットカード業界や日本で雨後の筍のように乱立するQR決済事業者、さらには家計簿管理アプリなどのフィンテック事業者にとって、脅威でしかないでしょう。
しかし、それ以上にサインのリ・デザイン的視点で衝撃的だったのは、Appleが作った物理カード の存在でした。
このカードはそもそもApple Pay端末がない店舗でも決済ができるよう、MasterCardと提携して発行する物理カードなのですが、その券面にはカードナンバーやセキュリティコードだけでなく、長らく本人認証手段として用いられてきた署名(サイン)欄すらもない のです。
クレジットカードの発行を受けたら、裏面にサインをしなければ使えないというのがこれまでのカードの常識でしたが、法的にも、悪用防止手段としても実は意味がなかった「サインという儀式」から脱却し、ICチップと暗証番号による認証に絞った というのは、AppleとMasterCardらしい英断です。
サインレスに踏み切れないクレジットカードを再発明
実は、このクレジットカードの本人認証手段から署名(サイン)を無くすという方向性は、今回Appleと提携したMasterCard自身が提唱しはじめていたもの。その内容については以前このメディアでも取り上げていたところです(関連記事:クレジットカード決済における「サイン」が不要になる日)。
しかし、印鑑文化に支えられ、もともと署名文化がほとんどなかったはずのここ日本においても、なぜかいまだにカード決済でサインを求められる状態は続いています。
私は、こうしたMasterCardの取り組みを知って、自分が書籍購入用に使っているMasterCardの裏面には、あえてサインをせずに使い続けています。しかし、そんなサインの無いカードでたった3,000円の本を一冊買うのにも、サインをさせられることがあります。もはや儀式でしかありません。
そもそも本人がサインしていないカードを利用するのにも機械的にサインをさせられたうえに、その照合すらされていないという喜劇。店舗はサインさえ取れれば本人確認ができていると思っているのか?疑問でしかありませんが、それほどまでに慣習というものは根強いことがわかります。
Appleの今回の発表は、署名文化の本場アメリカから、意味のない慣習と化した古い本人認証手段を再発明しようとする大胆な提案 だと考えます。
関連記事
(橋詰)
機能や料金体系がわかる
資料ダウンロード(無料)詳しいプラン説明はこちら
今すぐ相談