Thought RiverはユーザーがAIを育てる契約書レビューツール
ユーザー自身が自社専用の契約レビュー基準「プレイブック」をAIに学習させ、リスク管理と業務効率化を実現するThought Riverを紹介。外部の契約書ビッグデータに依存しない点も、大きな差別化要因となりそうです。
「プレスクリーニング」に特化したAI契約レビューサービス
Thought Riverは、アップロードした契約書のリスクを抽出し、わかりやすくダッシュボードに表示することで、法務部門・事業部門・経営者の契約交渉やリスク管理をサポートする、AI契約レビューツールです。
Thought Riverの仕組みをよく理解するためには、外国企業の法務部門では必ず存在する 「プレイブック(Playbooks)」と呼ばれる契約書レビューのための「基準書」 の存在を、あらかじめ知っておく必要があります。
外資系企業法務部においては、特にライセンス契約のような権利許諾契約では海外本社がライセンサーであることもあり、同じ条件で締結することが求められる。そこで契約書作成の基本ルールとなるのが、Playbooksと呼ばれるデータファイルである。
(中略)
Playbooksを使うことで、各社内弁護士は、基準契約書の条文の趣旨を確認し、相手方からの契約書案や修正依頼について何を受け入れ、何を拒否し、どのような対案を提示すればよいか、またその際に社内の誰の承認が必要かを即座に確認することができるようになっており、統一的な判断基準で契約審査が行えるようになっている。
—「外資系企業に学ぶ 契約審査プロセスの標準化 契約交渉とPlaybooksの使い方」(LexisNexisビジネスロー・ジャーナル、2012年8月号)より
Thought Riverは、この「プレイブック」の発想をシステムとして実装したもの。アップロードされた契約書を、Lexible(TM)と名付けられた契約書記述フレームワークで分解してAIが条項単位で照合し、当該契約書のリスク度合いをスコアリングして出力するツールとなっています。
現時点では、あくまで リスク度合いを判定する「プレスクリーニング」に特化 しており、条文の修正提案・代替案の提案を行う機能は備えていません。
ユーザーがAIにリスク判定基準を教育する
AIがリスクを判定して見やすく表示してくれるだけ。そう聞くと、「そんなもののどこに価値があるの?いまどき修正の条文案や代替案を提案するAIもあるのでは?」と、疑問に思われるかもしれません。
Thought Riverの新規性は、AIを各ユーザーが育てることができる点にあります。自社独自の契約書リスク判定基準をAIに学習させることで、それに合わせて契約書レビューをしてくれるようになる のです。
どうやってそれを実現しているのか?この仕組みにおいて、先ほど紹介したプレイブックが重要な鍵を握る存在となります。下記スクリーンショットに見られるように、Thought Riverに契約書をチェックさせているリスク判定結果画面で、AIが判定したリスクを、
- 条項の解釈
- 条項のリスク評価スコア
の2点にわけて、「この条項の解釈はそれで正しい/誤っている」「当社の基準ではこの条項のリスク評価スコアはxx点」というように法務部門が入力していくことで、AIに教育を施していきます。
この作業により、Thought Riverのプレイブックにその基準が保存され、次回以降の契約チェックにはAIがその解釈と評価基準に基づいてリスクチェックを行うようになるわけです。
プレイブックAIというアイデアが効果を発揮する2つの場面
こうした特徴を持つThought Riverは、これまでの契約テックでは解決されていなかった以下2つの問題を解決し、契約書業務の効率化を加速しうるツールと言えます。
(1)自社独自の目線と基準でレビューができる
これまでのAI契約レビューツールは、そのツールを設計した企業が定めた契約リスク判定基準、いうなれば、「世の中の標準的企業を(AI企業が勝手に)想定した(あいまいな)プレイブック」に照らしてリスク度を判定し修正するにすぎないもの でした。
しかし、よくよく考えてみると、
- 大企業と中小企業
- 製造業とウェブサービス業
- 売り手と買い手、秘密情報の開示者と受領者
- BtoBサービスとBtoCサービス
など、ざっと思いつくものを挙げただけでも取引というものはさまざまな立場の掛け合わせがあり、「世の中の標準的企業の契約リスク判定基準」など、定めようがありません。
あいまいな基準によるAI契約レビューであっても、人間によるチェック作業と比べればスピードが格段に早いことから、導入の意義や効果は一定程度あるように感じられたかもしれません。しかしながら、その業界独自の慣行や当社独自の基準でもチェックができなければ、その点について社内の法務部門が同じ契約書を改めてチェックする必要が出てしまいます。
法務部門がプレイブックを育てる手間はかかるとはいえ、世間一般的な基準ではなく、当社独自の基準に照らしたリスクスコアが瞬時に表示されることは、これまでのAI契約レビューツールには無かった特徴 と言えるでしょう。
(2)契約書レビューノウハウの蓄積と活用が徹底される
冒頭述べたように、外国企業の法務部門ではプレイブックが必ずと言っていいほど存在します。しかし、文書だけでまとめられるプレイブックは、ベテランになればなるほど見なくても仕事ができるようになることから、次第に更新も活用もされなくなりがち です。そうなると、プレイブックに新しい契約書レビューのノウハウや知見が反映されなくなり、情報共有が徹底されないばかりか、ますます個人技に依存していくことになります。
一方、Thought River上のAIプレイブックは、皆が入力し育てれば育てるほど自社の法務業務が正確に、かつ楽になります。自分たちの仕事が楽になるというインセンティブがあれば、ほうっておいても法務部員全員が入力を徹底します。個人にタコツボ化しがちだった法務のノウハウを引き出し、Thought Riverを使う事業部門も直接その恩恵を受けられる ようになるのです。
プレイブックの充実度合いは、文書でまとめて使うときに人間が読み下さないといけない紙バージョンとはまったく違う次元に到達するはずです。そうしたプレイブックとAIで簡単に照合できるようになるだけで、抜け漏れなくスピーディな、圧倒的な業務効率化が図れることは間違い無いでしょう。
ビッグデータを持たずとも実用化可能
これまで、こうした契約書レビューAIを育てるには、とにかくビッグデータを大量に食べさせて機械学習させることが重要だと考えられてきました。そして、機械学習に必要とされる1万件単位の契約書を集めることができる企業は、ほんの一握りだったはずです。
そんな中、一見古典的なエキスパートシステムにも似た「プレイブック」と照合するというアイデアと、言語処理のAIを掛け合わせることにより、ビッグデータを必要としないシステム が生まれました。
2016年にイギリスで創業したThought Riverは、今年に入ってからこの「プレスクリーニング」というコンセプトに一気にプロダクトを特化したばかりで、このアイデアが市場に受け入られるかは未知数です。しかし、どんな企業においても実用化が見通せる現実的なAI契約ツールとして、有望であるように思います。
(橋詰)
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