「デジタル手続法案」概要とガイドラインが定める行政手続の本人確認レベル
「デジタル手続法案」とガイドラインが固まり、行政手続のデジタル化はいよいよ最終局面に。しかし、そこには推進を懸念させる材料も見え隠れします。
デジタル手続法案および本人確認ガイドラインがついに公開
2019年3月5日付「第11回行政手続部会 議事次第」が公開され、
- 「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」
- 「デジタル手続法案」の概要
が閲覧できるようになりました。
本メディアでは、民間のオンライン電子契約普及を推進する立場として、いわゆる「デジタルファースト」と呼ばれる行政手続のデジタル化の動きに注目してきました(末尾関連記事参照)。そして、今回の法案およびガイドラインは、その集大成としての内閣官房のアウトプットとなります。
これらについて評価と感想を一言でいえば、特に法人による行政手続において、紙とハンコの一切をデジタルに塗り替える力強さはあるものの、個人を含めた普及推進力には一部懸念が残る、と考えています。
懸念点その1:地方公共団体は努力義務
まず、デジタルファーストを推進する法的根拠としての「デジタル行政推進法」について。
具体的な条文案はまだ公開されていませんが、行政手続(申請及び申請に基づく処分通知)について、これまでの紙ベースではなくオンライン実施を原則とすることが明記されることになった点は、高く評価すべき点です。
しかしその法的義務について、「地方公共団体等は努力義務」となってしまったことが、今回明らかとなりました。
オンライン化にかかる初期のインフラ整備負担を乗り越えさえすれば、もっともその恩恵が得られるはずなのが地方自治体なわけですが、財源の問題からオンライン化を躊躇する展開は、容易に想像されます。
与党内閣第二部会・総務部会・IT戦略特別委員会合同会議でも、この点について議論があったことが、杉田水脈議員のSNS投稿でも紹介されていました。
懸念点その2:ハードウェアトークン(マイナンバーカード)へのこだわり
また、同時に公開された「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」についても、デジタルファーストの推進を阻害しかねない大きな懸念点が存在します。
詳細なガイドラインの概要をまとめた資料「オンラインにおける行政手続の本人確認の手法に関するガイドラインについて」のP5およびP6に、個人・法人に場合分けして身元確認と当人認証のレベルと手法例が記載されているのですが、その最上位レベルには、いずれもICカードを想定したと思われる ハードウェアトークンのみが規定されている という点です。
さらに懸念が深まるのは、P5の個人の場合のレベル2および3の手法例において、マイナンバーカードの利用を名指しで規定している 点でしょう。
ソフトウェアトークン的なものが認められないとなると、ICカードを読み取るカードリーダーが必要となります。スマートフォンのようなモバイル端末をICカードリーダライタとして使用する方法について、e-taxのウェブサイト等でも案内がありますが、おそらく面倒すぎてほとんどの方が途中で挫折することになるでしょう。政府CIOにも、技術的理想だけでなく、サービスのUI・UXデザインという発想を取り入れていただく必要がありそうです。
カードの普及を目指すこと自体に異論はないものの、現状の普及率は10%程度、さらにそこに格納された電子証明書の期限更新が必要という時限爆弾も抱えている状況の中で、あまりにも現実的ではない縛りをかけてしまっているように思われます。
まずは法人手続のオンライン化を軌道に乗せるところから
上記のような懸念もあるものの、法人については、経済産業省も巻き込んで「法人共通認証基盤」が構築され、ここが発行するID・パスワードを併用した多要素認証により、多くの行政手続きで実印や印鑑証明の提出を不要とする手続きが推進されます。
個人も含めての国民総オンライン化とはならなくても、少なくとも法人からの行政手続については、印鑑の不要なオンライン行政手続きが推進されることになる はずです。
もちろん今回の法案は、上図にもあるとおり、あくまで行政手続のオンライン化を推進するものであって、民対民の契約手続のオンライン化を義務付けるものではありません。
とはいうものの、日本の「紙と印鑑」文化を悪い意味で支えてきた行政がいよいよそこから脱却することで、法人間の電子契約普及の大きな弾みとなることを期待しています。
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