契約実務

法律が定める契約書の法定保存期間は何年間?適切な保管期間を解説

契約管理入門—法律で定められた契約書の保存期間は何年間?

本記事では、契約書の法定保存期間一覧表を示しながら、企業が紙の契約書を何年間保存すべきか、長期保存時の注意点などを解説します。法人税法・電子帳簿保存法等が定める契約書の最低保存年数流ルールを把握し、契約のライフサイクルを管理して、保存の必要がない契約書は処分する体制を構築しましょう。

契約書の法定保存期間は何年か

契約書の法定保存期間は参照する根拠法令によって異なります。契約書の保存期間を定めている主な法律として、会社法、法人税法、電子帳簿保存法(正式名称「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)の3つが挙げられるので、それぞれで定められている保存期間を確認しておきましょう。

根拠法令 契約書の法定保存期間 参考条文
会社法(432条2項) 10年 「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。」
法人税法施行規則(第59条) 7年(※1) 「青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。」
電子帳簿保存法 (法人税法の適用により)7年(※1)

※1:青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度または青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度においては、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)

会社法と法人税法で紙の契約書の保存期間を定めているのに対し、電子帳簿保存法は電子データによる契約書の保存期間を定める法律になっています。電子帳簿保存法については本記事で後述していますのでそちらも確認しておきましょう。

契約書の法定保存期間一覧表

企業が年々成長を重ねていくにつれ問題となるのが、契約書等の文書を保存する物理的なスペースが増え続ける点です。結局のところ、企業は契約書を最低何年間保存しておけばよいのでしょうか?

そこでこの記事では、法律で保存期間が定められている主な契約関連書類をリストアップし、根拠条文とともに一覧表にまとめました

※下表は右方向にスクロール可能です

文書 年限 起算日 根拠条文
効力存続中の契約書 永久 - -
効力存続中の重要な権利に関する文書 永久 - -
建築士事務所の業務に関する図書
(契約書、設計図書等)
15年 作成日 建築士法施行規則21
製品の製造・加工・出荷・販売記録 10年 製品引渡日 PL法5,6
建設業の営業に関する図書
(完成図、打合せ記録、帳簿、契約書等)
10年 当該建設工事の目的物の引渡しをした日 建設業法施行規則28
取引証憑書類
(請求書、注文請書、契約書、見積書)
7年 帳簿閉鎖日および書類作成日・受領日の属する事業年度終了の翌日から2か月を経過した日 法人税法施行規則59,67
有価証券の取引に際して作成された証憑書類
(受渡計算書、預り証、売買報告書等)
7年 帳簿閉鎖日および書類作成日・受領日の属する事業年度終了の翌日から2か月を経過した日 法人税法施行規則59,67
現金の収受に際して作成された取引証憑書類
(領収書、預金通帳、借用書等)
7年 帳簿閉鎖日および書類作成日・受領日の属する事業年度終了の翌日から2か月を経過した日 法人税法施行規則59,67
産業廃棄物処理の委託契約書 5年 契約終了日 廃棄物処理法施行規則8の4の3
雇入れ又は退職に関する書類
(雇用契約書、労働条件通知書、解雇通知等)
5年 労働者の退職又は死亡の日 労働基準法施行規則56
賃金その他労働関係に関する重要な書類 5年 最後の記入をした日 労働基準法施行規則56

この表にも多数出てくるように、紙の契約書の最低保存期間を定める主な法律が、法人税法 です。効力存続中の契約関連書類が廃棄できないのは当然として、法人税法上の取引証憑書類としては 最低7年保存が原則 となります。

さらに、建築士・建設業者・製造物責任を負うメーカーなど、仕事のアウトプット(成果物)に長期的な法的責任を負うべきビジネスについては、特別な保存義務が規定されていることがわかります。

中でも目立つのは、「15年」の保存義務を定めた建築士法です。2006年までは保存期間は5年だったところ、耐震等安全性に関する構造計算書を偽造したいわゆる「姉歯事件」が社会問題となったことを受け、義務が強化された経緯があります。

雇用契約書の保存期間は5年

従業員を雇う際に締結する「雇用契約書」の保管期間は労働基準法第109条により5年と定められています。2020年4月1日の労働基準法改正により、雇用契約書の保存期間は延長され、3年から5年に変わったためです。

労働基準法 第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
※引用:e-Gov法令検索『労働基準法』

なお、上記の条文にある通り、5年の保管が義務付けられているのは「雇用契約書」だけではありません。「雇入決定関係書類」「労働条件通知書」「履歴書」「身元引受書」など雇い入れに関するすべての書類が保存の対象となります(参考:「改正労働基準法等に関するQ&A」P6|厚生労働省)。

このように、契約書の保存期間は根拠法令によっても異なるため、保管期間を調べる際はまずどの法令が関連するのかを確認するようにしてください。

電子契約の最低保存期間を定める電子帳簿保存法

紙の契約書の最低保存期間を定めている法人税法に対し、電子契約の最低保存期間を定める主な法律が、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律) です。

クラウドサインのようなインターネットを用いた電子契約は、税務上の用語で「電子取引」と呼ばれます(電子帳簿保存法2条1項6号)。この法律によって、電子契約のデータ(電磁的記録)も、紙の契約書と同じ期間、保存する義務が課されます(同法10条)。

この電子帳簿保存法の要件を満たさない電子契約サービスを利用すると、プリントアウトした書面を物理的に保管しておかなければならなくなる点、注意が必要です。

そのため、電子帳簿保存法の保存要件を満たすクラウドサインのような電子契約サービスを利用することが、契約書保管に関する税務上のコンプライアンス要件を満たす近道となります(関連記事:契約書の「データ保存」と電子帳簿保存法—電子契約データ保管の注意点

必要以上の期間に渡って保存してしまいがちな契約書には要注意

さて、法律上の最低保存期間がわかったところで、実務上注意したいのは、保存期間を超えて必要以上に長期保存されがちな契約書の放置です。

特に気をつけたい契約書の類型として、

  • 秘密保持契約(NDA)
  • 取引基本契約

の2つが挙げられます

秘密保持契約では、当時交換した情報がすでに秘密ではなくなっているのに、契約書上で秘密保持期間が「期限なし」と定められているという理由で、契約書が後生大事に保存されているケースが多くあります。

加えて、いわゆる自動更新条項が置かれていることが多いのが、取引基本契約です。取引実態がすでになくなっているにもかかわらず、契約書だけが漫然と自動更新され続けているケースは少なくありません。

ここまでチェックを行おうとすると、形式的な契約終了期日管理だけでなく、実質的にその契約書が生きているか、定期的に棚卸しをする必要 があります。

契約管理プラットフォームで保存期間の問題を解決

7年の最低保存期間を超え、定期的に棚卸しをしたとしても、いざ紙の契約書を捨てるのは勇気がいるものです。そこで、取引証憑書類の電子化について定めた電子帳簿保存法の要件を遵守したうえで、紙の契約書をスキャナ保存し、物理的なスペースを圧縮するというアイデアが考えられます。

これを行った場合、スペースの節約になるのは間違いありません。ところが、法律的にはデメリットが発生する可能性があります。紙の契約書をスキャンしたデータは、民事訴訟法上の証拠としての評価・取扱いは、ただの「コピー」扱いとなってしまう 点です。紙の契約書を原本としている限り、結局データ化はできても廃棄はできないのです。

これに対し、クラウドサインのような契約管理プラットフォームとして統合された電子契約によって電子取引の「データ保存」を行う場合は、データが原本として扱われるため、そうしたリスクはありません

そもそも原本が電子ファイルであるために紙文書が発生せず、証拠としての価値を失わずに、ローコストに契約書の法定保存期間を遵守できる電子契約への早期移行をおすすめします。

また、電子帳簿保存法への対応も迫られている中、散在している紙の契約と電子の契約をどのように管理すればいいのか、悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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