労働者派遣契約書の完全電子契約化が解禁
労働者派遣法の実務に詳しいお客様からお問い合わせをいただくことが多かった派遣契約の電子契約化が、2021年1月1日より解禁されました。
実は電子化が認められていなかった労働者派遣(個別)契約
派遣元企業と派遣先企業との間で締結される労働者派遣(個別)契約。契約期間が短期で設定され、また派遣期間制限の範囲で更新が繰り返されることが多いことから通数が多く、管理も含め煩雑な事務作業を生む書面です。
これを締結するにあたっては、その 派遣契約の内容を「書面」に記載しておかなくてはならないと定められており、電子化は認められていません。雇用も派遣も、労働者自身への労働条件・就業条件明示は昨年より電子メールやSNSでOKになっていますが、なぜかこの事業者間の契約だけは、現時点では電子化が認められていなかったのです。
派遣個別契約の電子化が認められないとされてきた根拠法は、労働者派遣法26条と労働者派遣法施行規則21条3項 です。
労働者派遣法
第二十六条 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。(以下略)労働者派遣法施行規則
第二十一条 (1〜2略)
3 労働者派遣契約の当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し法第二十六条第一項の規定により定めた事項を、書面に記載しておかなければならない。
ややこしいことに、これらの法令があるにもかかわらず、条文上「契約書を作成する義務」までははっきり記載されていないことから、
- 派遣元/派遣先のそれぞれが持つ書面の台帳等に法定項目が記載されていれば電子契約でもよい
- 労働局の監督・調査時に必要になった際に法定項目が記載された電子契約が印刷できる状態であればよい
といった緩やかな指導にとどめている地方労働局も存在しました(労働者派遣業を営むお客様から複数証言あり)。一方で、厚生労働省の需給調整課では、「契約の電子化は認めていない」との見解が貫かれてきました。
このことが、派遣業務分野への電子契約導入に実務上大きな混乱を生んでいました。
厚生労働省に対し新経済連盟とともに電子化の派遣契約電子化の必要性を説明し改正にいたる
こうした本省・労働局ごとに異なる解釈の揺れについて、電子契約が浸透するにつれお客様から疑問やご不満の声をいただくことが増えていき、クラウドサインとしても強い問題意識を抱くに至ります。
そこで、2019年より 新経済連盟にもロビイング活動をご支援をいただきながら、厚生労働省に対し、派遣元・派遣先企業の具体的な声を集めた上で電子化の必要性についてご説明を重ね てきました。
こうした要請を踏まえて今回需給調整課が動いてくださり、第302回労働政策審議会 職業安定分科会労働力需給制度部会にて検討課題として取り上げられ、審議の結果、電磁的手段の利用が認められる運び となりました。
具体的には、厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(平成十七年厚生労働省令第四十四号)の別表第二に、「労働者派遣法施行規則 第21条第3項の規定による書面の記載」が2021年1月1日付で追加されたことにより、電磁的記録による保存が認められたこととなります。
労働分野の脱ハンコと人事情報のデータ化推進に大きな一歩
労働者派遣契約の完全電子化が今回の法改正により実現することで、 2019年4月に解禁された労働条件通知書の電子化とあわせて、労働分野における主な文書について脱ハンコと完全電子化が可能に なりました(関連記事:労働条件通知書の電子化がついに解禁—労働基準法施行規則の改正ポイント)。
いまや電子化によるメリットは、印刷・製本・押印・保管コストの削減だけにとどまりません。過去書面で締結した各派遣会社との大量の派遣契約書を含め、クラウドサインAIで契約項目を読み取り、台帳を一元化とともにデータ分析することにより、派遣契約の適正化や派遣社員の労働条件管理の分析などにも役立てることができます。
一歩ずつではありますが、日本においても契約の電子化が着実に進んでいます。
画像: mapo / PIXTA(ピクスタ)、Varava / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
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