PayPayボーナス取り消し騒動の法的問題点—ソシャゲ類似の射幸性とUIデザインに見えた隙
2018年12月の「100億円あげちゃうキャンペーン」でコード決済アプリのシェアを取りつつあったPayPay。ところが、貰えるはずの「PayPayボーナス」が取り消されるユーザーが大量発生し、炎上騒ぎとなっています。「利用規約違反であればボーナスを付与しない」ことについて、法的に問題はないのでしょうか。
利用規約の解釈に対して生まれる不満
キャンペーン期間中に買い物をしていれば、1月10日から貰えるはずだったPayPayボーナスが取り消された…。当たれば最大10万円分のPayPayボーナスがもらえると期待していたユーザーの間で、ちょっとした炎上騒ぎとなっています。
きっかけは、1月8日の会社リリースでした。
この最終行からリンクされたPayPayボーナス等が「付与取消」となる場合の理由についてを読むと、
- 同一人が複数のPayPayアカウントを作成してボーナスを獲得
- 他人名義のクレジットカードを使ってPayPayアカウントを作成しボーナスを獲得
このようなケースを 不正利用による利用規約違反とし、PayPayボーナスの取り消しやアカウント停止のペナルティを与えることが発表されました。
これを受けて、事前に上記ルールについて明確な説明がなかったのではないか?そうした言い分も聞かず運営の一存でボーナスを取り消せてよいのか?と、今回の措置に納得できない大量のユーザーが不満を爆発させている状況となっています。
PayPayボーナスは「前払式支払手段」ではなく「企業ポイント」
ところで、PayPayボーナスの法的な位置付け とは、どのようなものなのでしょうか。
PayPayサービス利用規約 の中のPayPayウォレット特約第1条に、PayPayボーナスに関して、以下のように定義があります。
つまり、PayPayには、
- PayPayライトと名付けられた、資金決済法に基づく「前払式支払手段」
- PayPayボーナスと名付けられた、商品を購入するなどの条件を満たすことで与えられる「無償のPayPayライト」
この二つの通貨のようなものが存在していると、定義されています。
1の前払式支払手段であるPayPayライトは、資金決済法という法律によって厳格に発行・管理のルールが規定され、万一の場合は企業に払い戻し義務が負担させられています。ほぼ現金同等の価値をもつものと言ってよいでしょう。
これに対し、2の PayPayボーナスは「無償のPayPayライト」 だと書かれています。定義が循環参照のようになっているのが少し気にはなるのですが、任意の条件に基いて あくまで「無償」で付与されるものだと強調 されています。航空業界のマイレージプログラムやソシャゲ(ソーシャルゲーム)の無償ゲーム内ポイントと同じようなもの、というわけです。
しかし、利用規約末尾の「PayPayボーナスの取扱いについて」によれば、
1PayPayボーナス=1円として利用可能なポイントとの記載があり、現金と同等の価値をもつものが手に入るはずだと、ユーザーは期待したわけです。
こうした特典は「企業ポイント」と呼ばれ、企業のマーケティングに活用されまた消費者にとっても利便性を向上させるものとして、古くから利用され広まっています。
「企業ポイント」の取り消しに関する法的規制
さて、PayPayボーナスがそうしたマイルや無償ゲーム内ポイントのような「企業ポイント」と同じだとして、一度付与した企業ポイントを取り消すことについて、法的な規制はないのでしょうか?
この点については、平成20年に経済産業省がまとめた「企業ポイントに関する消費者保護のあり方(ガイドライン)」という文書があります。これ自体は法律ではないものの、企業ポイントを取り扱う基本的な考え方をまとめたものとして、各企業が参照しているガイドラインです。
特に今回の炎上と関係するガイドラインの記載としては、まず1点目に消費者契約法との関係性が挙げられます。
消費者との契約において「発行企業はポイントプログラムの利用条件を事前告知なく自由に変更できる」と約款に表示した場合においても、消費者が貯めたポイントを事前告知なく突然失効させるなど、消費者が期待する合理的な保護水準に著しく反するような利用条件の変更は、消費者契約法10 条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に抵触し、無効となることもありうる。(P10)
もう1点が景品表示法(不当表示規制)との関係性です。
なお、ポイント付与や利用等の条件における表示・説明が、実際とは異なり、消費者の誤認を招くものである場合には、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)第4条「不当な表示の禁止」に抵触する可能性があり、この点に十分注意する必要がある。(P11)
資金決済法で厳しく規制・保護される前払式支払手段とは異なり、取り消しを明確に禁じるような法律が存在しない企業ポイント。結局、この取り消しが法的に認められるかどうかは、PayPay株式会社が1月8日に追加的に発表した不正利用の具体的ルールが、「消費者契約法」および「景表法」に照らし、当初消費者が認識していた企業ポイントの付与条件を事前告知なく変更したもの・または誤認をさせるようなものだったか という点に、焦点が絞られていくことになるはずです。
1月8日のリリースの内容が、キャンペーン開始前から一言一句変わらずに通知され確認されていれば、騒動は発生しなかったかもしれません。こうなった以上、PayPay株式会社としては、もともとの注意事項の表示と利用規約の記載との整合性について、ユーザーに説明し争わざるを得なくなるでしょう。
なぜここまで炎上したか—PayPayの2つの問題点
こうした企業ポイントの取り消しというのは、例えばソーシャルゲームの世界など、これまで無かった話では決してありません。
にもかかわらず、今回の騒動が特に炎上しているのはなぜでしょうか?その点について、大きく2つの理由があるのではないかと考えます。
問題点1:抽選方式のキャンペーンがソーシャルゲーム以上に射幸心を煽った
まず第一に、20%のボーナスが得られるということに加え、抽選で全額ポイントバック(10万相当まで)が得られるというキャンペーンに射幸心を煽られた消費者が、それこそソーシャルゲームのガチャを回すような感覚でわれ先にと買い物をさせられてしまった、という点です。
ソーシャルゲーム内の無償ポイントは、しょせんゲーム内の世界の通貨です。ユーザーが期待する価値も相当に低く、取り消されてもそれほどの炎上にはなりません。
しかしPayPayボーナスはかなり幅広いリアル店舗で実際のものと引き換えられる点で、そうした企業内ポイントよりもはるかに価値が高い、現金そのもののようなポイントになっていたというのも、消費者からの恨みを買う原因となっていると思います。
問題点2:PayPayアプリのポイント表示のUI設計に隙があった
もう一点、PayPayが企業ポイントを消費者に付与するにあたり、気をつけてもよかったのではないかと思ったのが、PayPayボーナスの、スマホ画面上での表示とUI設計 についてです。
PayPayのアプリ表示を見ると、前払式支払手段であるPayPayライト・企業ポイントであるPayPayボーナスともに、ポイントの量を表す単位として「円」が記載 されています。こう見ると、まさに自分のPayPayアプリに日本円としてこれだけの価値があるものとして見えてしまうのではないでしょうか?
この点、たとえば以下にある 同業のコード決済アプリ「楽天ペイ」やソシャゲの「モンスターストライク」のポイント表示画面を見ても、「円」という単位表示はしていません 。他のアプリについても、円表示をしているものはなく、「○○○○P」「○○○○ポイント」「○○○○個」「○○○○ルピー」といった表示がほとんどです。
法務担当者がこうしたアプリのUIレビューをしていれば、企業ポイントを日本円そのもの誤認させるような「円」の単位表示はさせず、「○○○○PPB(PayPayボーナス)」と表示させたのではないでしょうか?ユーザーに無償で提供したポイントをわざわざ日本円そのものと誤認させる表示をするのは、リスクを大きくする効果しかないからです。
「円」表示がただちに違法というわけではありませんが、目先のお得感を優先したPayPayアプリのUI設計やデザインについては隙のようなものが感じられ、法的目線からもう少し慎重な配慮があってもよかったのではないかと考えます。
まとめ
以上挙げたポイントを箇条書きでまとめると、以下のとおりです。
- PayPayボーナスは、資金決済法に基づく前払式支払手段ではなく、いわゆる「企業ポイント」である
- 企業ポイントの取り消しについて明確な法的規制はないが、事前に定められた条件と異なる取り扱いをする場合、消費者契約法および景表法上問題となることがある
- ガチャのような企業ポイント付与方式に加え、スマホ画面のUI上「円」表示をしていたことが、火に油を注いだのではないか
(橋詰)
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