Atriumはサブスクリプション型法律事務所の成功モデルとなるか
リーガルテックの登場によって、従来型の法律事務所はどのような影響を受けるのか?行く末を占う意味で、2019年最も注目すべき存在はこのAtriumでしょう。はたしてその理由とは。
不透明な「タイムチャージ」の慣習を破壊する新時代の法律事務所
Atriumは、スタートアップ企業を中心に、契約レビューや法律相談サービスをflat-rate pricing(定額制)で請け負う、新しい時代の法律事務所 です。
これまでの法律事務所の料金体系といえば、ほぼ例外なく「タイムチャージ(アワリーチャージ)」でした。弁護士は、受任した業務を処理するのにかかった実働時間を積算し、クライアントに請求します。クライアントは、明細とともに送られる請求書に書かれた金額をそのまま支払うことになります。
もちろん、顧問契約を結んでおけばある程度値引きしてくれるでしょう。事前見積もりも概算であれば出してくれるはずです。ただし、その見積もりはあくまでその案件が当初の想定どおりにすすめば…というもの。多くの場合、ビジネスがその想定どおりには進むことはなく、気が付けば見積もり金額を超えていくというわけです。
弁護士事務所の課金体系として当たり前とされてきたこの慣習を壊そうとするのが、Atriumです。法律事務をリーガルテックエンジニアとロークラークが徹底的に機械化してタイムチャージの呪縛から脱却。資金調達戦略のアドバイスなど、機械化できない付加価値業務だけを弁護士が担当することで、クライアントに請求する費用を低額に、かつ固定額化をも実現しました。
Atrium’s software platform uses machine learning to ingest documents and convert them into structured data, and product UIs to support common workflows for both attorneys and companies. Prices are given upfront, and repetitive tasks are automated. This all empowers lawyers to spend more time actually advising their clients, in turn enabling them to deliver complex services that aren’t automatable (such as venture financings) faster and better. In short, the widespread use of technology can unlock a much better experience for both businesses and lawyers, making both more productive and able to focus on the most important work.
(https://a16z.com/2018/09/10/atrium-announcement/)
「法律事務の徹底的な機械化」とは、具体的にどう行うのか? その一例として同社は、自社の資金調達で100名近くの投資家との投資契約締結に用いたテクノロジーについて、スクリーンショットを公開しています。このようなツールの開発に投資することで、契約業務を簡素化するわけです。
Atriumは、月額2,000ドルから10,000ドル固定のいわゆるサブスクリプションモデルでサービスを提供 します。共同創業者の一人である Augie Rakow氏いわく、「そもそも内部的にも弁護士の作業時間を記録していない」というのですから驚きです。
This is a new kind of law firm, Rakow told me during an interview earlier this week, with unique approaches to billing and technology. All work will be done on monthly subscription rates or on flat rates for work outside the scope of a subscription. “We’ve done away with hourly billable rates,” he said. “We don’t track hours internally.”
(https://www.lawsitesblog.com/2017/09/revealed-justin-kans-secretive-legal-startup-debuts-today-different-kind-law-firm.html)
起業家兼投資家として著名なジャスティン・カンが創業
Atriumの共同創業者のもう一人が、1983年生まれのアジア系アメリカ人 ジャスティン・カン氏です。
彼はイェール大学を卒業後にJustin.tvを創業、頭にWebカメラを装着し日常生活をそのまま放送する「Lifecast」ブームを2007年ごろに起こします。その後、テクノロジー・スポーツ・エンタメコンテンツを配信するtwich.tvを開始、紆余曲折ありながら事業をゲーム実況にピボットしたことで成長し、2014年に同事業をAmazonに $970 Millionで売却に成功して、一躍時の人となりました。
その彼が次なるチャレンジとして選んだのが、米国リーガルマーケットの制覇。もともと起業家であり投資家として法律事務所のヘビーユーザーであった経験から、大手法律事務所の不透明で高額な請求にフラストレーションを感じていたことがAtriumの企業のきっかけ となったと、様々なメディアで語っています。
“This was a problem I’d seen in my own experiences, where all these parts around legal were like a blocker to what I wanted to do, and the legal bills felt like Russian roulette,” says Kan.
(https://www.forbes.com/sites/alexkonrad/2018/09/10/twitch-counder-raises-65-million-atrium/#2514ee8040cf)
すでに280社超の顧客を獲得し年370%成長
2018年9月に Andreessen Horowitzをリード投資家として、$65 Millionの増資に成功。当該資金のほとんどは法律事務のオートメーション化に注ぎ込む計画であり、さらなるクライアント規模と業容拡大が期待されています。
2018年末の同社公表値で280社を超えるクライアントをすでに獲得。また、LinkedInに投稿された年末のラップアップ投稿によれば、昨年一年で370%の成長を遂げているとのこと。この伸びが売上なのか顧客数なのかは明らかにされていませんが、足元の実績は極めて順調な成長曲線を描いているようです。
リーガルテックをクライアントに販売するのではなく、リーガルテックによって自らの生産性を高めることで業界を変革しようとするAtrium。調達した資金をテコにどこまで大きく成長できるか、そして日本の大手法律事務所でもこのアプローチを採用するところが現れるのか、注目をしたいと思います。
(橋詰)
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