X-Tech法務のためのブックガイド2019
AI・ロボット・FinTech・InsurTech・HRTechといった、既存業界をテクノロジーで革新するビジネスに携わる法務担当者ならぜひ読んでおきたい、X-Tech法務必携本12冊をセレクトしました。
目次
- (1)AIが人権におよぼす影響をあえて言語化し対峙する
- (2)すでにはじまっているAI活用ビジネスの実例から法規制のポイントを学ぶ
- (3)AI法実務を体系的に理解する
- (4)ロボット・AIの存在が10年後の法をどう変えていくかを予測する
- (5)ビットコインとブロックチェーンの基礎を正確に理解する
- (6)ブロックチェーンを支える技術と仕組みを深く知る
- (7)ブロックチェーンの周辺法を広く抑える
- (8)スマートコントラクトを自分で動かしながら理解する
- (9)最新のFinTech法務知識をアップデートする
- (10)類書が取りこぼした仮想通貨周辺法を総ざらいする
- (11)AI+オンラインで少額紛争を解決する
- (12)電子契約の法律論を再考する
(1)AIが人権におよぼす影響をあえて言語化し対峙する
自己決定権(13条)・プライバシー権(同)・営業の自由(22条1項・29条)・教育を受ける権利(26条1項)・裁判を受ける権利(32条・37条1項)など、AIビジネスが生活に深く関わりだすことで問題となるであろう憲法上の問題の数々を適示する書。
X-Techを推進したい企業の立場にいると、人権という重たい問題からは目を背けがちですが、決して逃げられないテーマであり、このビジネスにかかわる以上どこかで対峙する必要があります。著者らが「憲法と調和的なAI社会をどうやって実現するか」という前向きなスタンスから提示する問題提起をきっかけに、先んじて自社AI事業の人権問題Q&Aを検討しておくぐらいの心意気がほしいところです。
(2)すでにはじまっているAI活用ビジネスの実例から法規制のポイントを学ぶ
自動運転・ドローン・ディープラーニングを用いた画像分析・ビッグデータを使ったマッチングビジネス・医療における人工知能活用…と、大手総研がまとめたTechビジネスの解説書のような章立てで、目次を一覧しただけでは法律書としてのテイストはほとんど感じられません。
しかし中身を読んでみると、すべてのビジネスの分析において法規制リスクに関する丁寧な検討が加えられていることに気づきます。それもそのはず、著者の二木康晴氏は、経営競争基盤に所属するコンサルタントでありながら新規事業のリスクマネジメントに強みをもつ弁護士だからです。
(3)AI法実務を体系的に理解する
西村あさひ法律事務所の9名の弁護士の手による、民事、刑事、倫理、さらには開発・ライセンス契約実務までを一冊に詰め込み体系的にまとめた実務書。
AI技術の基礎用語を抑えたあと、「基本編」で著作権法・特許法・不競法・刑法といった現行法の枠組みに照らして抽出される問題点を、つづく「応用編」ではAIシステム開発・プロファイリング・デジタルカルテルといった個別テーマから想定される実務上の論点を、さらに「AIと倫理編」でそれらすべてを総括しながら倫理指針との関わりに触れ、最後に法律が実務に追いついていない点について法改正への提言を行い締めくくります。
今読み直してみても、体系の秀逸さとカバーする範囲の広さが光る良書です。
(4)ロボット・AIの存在が10年後の法をどう変えていくかを予測する
上記(3)『AIの法律と論点』が想定している未来のその先の、ロボットやAIが実際に普及しはじめる未来において、それらに影響をうけた法はどのように変わっていくかを展望する本。
実務書というよりも法学書という立ち位置のため、明日の業務に直ちに役に立つ類のものではありませんが、Tech関連法規制の国内・国際動向をまとめた本書1〜2章だけでも読んでおくことで、この分野の法律問題に関する視野を広く・視点を高くしてくれる本だと思います。
(5)ビットコインとブロックチェーンの基礎を正確に理解する
ブロックチェーンを使って駆動する仮想通貨ビットコイン。これを支える技術と法律について、現状で最低限これだけは知っておくべきという基礎知識と、なぜこれがそれほどまでに今後のビジネスにおいて重要な技術となるのかを、そのブームが来る前から研究を続けていた信頼のおける著者が文系読者にもわかりやすい筆致で説明してくれます。
ビットコインやブロックチェーンについておおよそ分かったつもりになっていても、自分の言葉で誰かに対して説明する自信はない、という方は多いのではないでしょうか。中途半端な書籍に何冊も手を出し頭の中が混乱してしまった方にこそ、本書に戻ることをおすすめ。私自身、Twitterでこの本の紹介を受け、読了後はじめて腹落ちしたと思えました。
(6)ブロックチェーンを支える技術と仕組みを深く知る
X-Techのほとんどを支えるブロックチェーン。そのブロックチェーンを支える技術と仕組みの解説に焦点を絞った、とことんわかりやすい一冊。
公開鍵暗号システム、ハッシュ関数、電子署名、タイムスタンプ、P2P分散システム、ウォレット、マルチシグネチャなどの技術の一つ一つについて、図をふんだんに使って解説してくれます。(5)で身につけた基礎知識を無理なく広げるための副読本としておすすめ。
(7)ブロックチェーンの周辺法を広く抑える
ブロックチェーン技術をビジネスに適用しはじめた後に起こるであろう法律・会計・税務面の課題を、思いつく限りリストアップし、そのそれぞれの分野の国内外第一人者14名を執筆陣に揃えた学術論文集。
資金決済法上や金商法上の課題のみを挙げる書籍や論文が多い中、それ以外の周辺法令、たとえば出資法、貸金業法、犯収法、テロ資金凍結法、外為法、個人情報保護法、税法との関係について網羅的した、貴重な文献の一つです。
(8)スマートコントラクトを自分で動かしながら理解する
FintechとLegaltechの2つのTechを支える基幹技術となるスマートコントラクト。Corda・Hedgy・Rootstock・WeiFundなどの海外における実証実験事例や、弁護士ドットコム、デジタルガレージ&Brockstreamの3社による共同研究などをフォローし紹介します。こうした本を、仮想通貨ブームにようやく火がつきはじめた2017年3月というかなり早いタイミングで刊行していたのは、さすがの技術評論社さんです。
実際に Xcode、Homebrew、Java、Go言語の開発環境を自分でインストールするところから、簡単なコードを書いてイーサリアムをマイニングし、スマートコントラクトを動かすところまで体験できる点が特徴です。ただし、本メディアでの紹介記事でも触れたとおり、本書執筆時の開発環境のバージョンと最新のバージョンに差異があるため、本書のとおりにインストールしても動かないトラップがありますのでご注意ください。
(9)最新のFinTech法務知識をアップデートする
片岡総合とアンダーソン毛利友常の2大事務所に所属する弁護士による共著。
スマートフォンを使ったキャッシュレス決済、ブロックチェーンと仮想通貨によるICO、クラウドマイニング、ロボアドバイザー、オープンAPIなどを含む、いわゆるFintechサービスに関する法的論点を網羅。銀行法・貸金業法・信託業法・割賦販売法・金商法・資金決済法・犯収法など、比較的硬めのイメージがある金融関連法が、Tech分野にどう適用されるか、Q&A形式で検討します。
他のTech分野よりも法律のグレーゾーンをビジネス寄りに解釈する検討が進み、必要なものについては次々と法改正も進められたFintech分野。それだけに新刊が続々と出版され目移りする時期が続きましたが、それらがひと段落した2018年10月に本書第2版が出版されました。よってこの2018年末時点でFinTech分野で1冊選ぶとすればこれがおすすめかなと思います。
(10)類書が取りこぼした仮想通貨周辺法を総ざらいする
仮想通貨に対する欧州・アメリカにおける規制の状況や、特許をはじめとする産業財産権との関係、さらには税務・会計上の取扱いについてまで問題意識を広げた概説書。
230ページ程度の薄い本ではありますが、執筆陣に学者・弁理士・税理士・公認会計士等幅広いバックグラウンドを持った人材が参加しており、上記で紹介した各書籍でもあまり触れられていないテーマを総ざらいしてくれている点が貴重です。
(11)AI+オンラインで少額紛争を解決する
こちらは少し変わりダネ。AIを紛争解決にどう活用すべきかという観点から書かれた、少々マニアックな研究書。
ですが、2018年には内閣官房主導で裁判手続きのIT化議論が本格化し、さらにODR(Online Dispute Resolution オンライン紛争解決)に関する国際シンポジウムが東京で開かれるなど、迅速かつ低コストな紛争解決をテクノロジーで実現しようという動きは、2019年に入り加速すると予想しています。
(12)電子契約の法律論を再考する
最後はリーガルテックから一冊。約20年前の2000年に制定・公布された電子署名法。そしてそのころにはまだ影も形もなかったクラウド契約が、ようやくいま、リーガルテックの急先鋒として急速にこの日本でも普及し始めました。
一方、この新しい形の電子契約を電子署名法および民事訴訟法上どう位置付け解釈すべきかについて、一般の理解はまだまだ進んでいない状況もあります。電子契約に関する法的論点を整理し、前提知識としてのデジタル署名に関する知識を身につけるための信頼できる一冊として、このメディアで何度か紹介しているのが本書です。
古書でもどうしても手に入らないという方には、宮内『電子契約の教科書』をお勧めします。
(橋詰)
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