「第2回契約書タイムバトル AI vs 人間」が見せた2018年時点のリーガルテックの到達点
2018年のリーガルテックの到達点は、「それだけで弁護士を倒すまでにはまだ至らないが、頻出する契約類型については、一般人をサポートして弁護士と交渉できるレベルにまで引き上げた」というものでした。
プロの弁護士達が契約書AIの攻撃に落ち着いて対処
2018年11月30日、「第2回契約書タイムバトル AI vs 人間」が無事終了しました。世界初のリアルタイムでのAI対人間による契約書バトルの結果は、第1試合のNDA・第2試合のシステム開発委託契約ともに人間が勝利する結果 となりました。
ご観覧者、出場してくださった選手(Carat松本CEO、ポジウィル金井CEO、ドリームインキュベータ下平先生、法律事務所オーセンス飯田先生)のみなさま、リーガルテック参加企業としてご支援くださったLegalForce角田先生・川戸様、hubble早川CEOほかみなさま、難しいジャッジを引き受けてくださったシティライツ法律事務所伊藤先生、そして共催の東京カルチャーカルチャー様、誠にありがとうございました。
実況という立場で間近で見ていた感想としては、生まれたばかりのAI搭載契約書ソフトという「じゃじゃ馬」「暴れ馬」を乗りこなすのに苦労して時間を費やしている間に、経験豊富な人間弁護士が上手にこれを制御した、という言い方がしっくりくるのかな、という気がします。
より具体的にバトルのポイントとなった点を指摘すれば、契約を相手と合意できる文書として「まとめる」というプロセスにおいて、どの条項をどの優先順位で直すべきか?これを経験に基づいてピンポイントで抽出できる人間が、まだその優先順位まで判断する機能を持ちあわせていないAIに勝った、ということだったのではないでしょうか。逆に言えば、GoogleがYahooをはじめとするディレクトリ型検索エンジンを駆逐したように、その 交渉優先度のサジェスト機能を補強したAIが現れれば、人間は思考スピードで圧倒的に劣後し押され負けてしまうのかもしれない、という恐怖も感じました。
試合の様子は、クラウドサインの公式Twitterアカウントや、togetterのタイムライン、ジャッジとして参加頂いた伊藤雅浩弁護士のブログ「Footprints」でもそのログがご覧いただけます。
2018年のリーガルテックの到達点を実証
まだ12月になったばかりで今年の総括をするのは少し気が早い気もしますが、2018年の企業法務は、リーガルテックが花開いた年 となりました。
まさに契約書タイムバトル当日の朝に、出場リーガルテック企業の一社であるLegalForce社がジャフコ他一流の投資家たちから5億円の資金調達を行ったニュースなどは、そのことを象徴しています。
しっかりと安定したシステムで今回の大会を支援してくださった、Word文書のバージョン管理サービスhubbleも、この夏に大いに話題を集めたリーガルテック企業です。
今年、私たちが今年度計2回の契約書タイムバトルを通じた裏テーマとして設定していたのは、リーガルテックが一時の派手さ・話題性だけではなく、使おうと思えば実務で使えるものとなっていることを証明したい、ということでした。終了後の会場やネットでの感想を見ていると、そのことを実感された方も多かったようで、この2回のチャレンジを通じておおよそ目的は達成できたのではないかと思っています。
2019年は法律文書の設計・交渉リーガルテックの実用化時代に突入
来年の事を言えば鬼が笑うといいます。しかし、この契約書タイムバトルという場を借りた実証実験をもって、かなり確信を持って言えるようになったのは、2019年以降は、リーガルテックの中でも法律文書の設計・交渉の部分を自動化・機械化するサービスが次々と現れ、しのぎを削ることになる だろう、ということです。
2000年以降さまざまな電子契約サービス事業者が登場し、契約を電子文書として締結しクラウドで管理するという部分はすでに当たり前の技術となり、あとは各社がどれをいつ採用するかというだけの問題となっています。2018年は、働き方改革の波にも乗って、そのスピードが加速度的に上昇した年でした。
一方、ビジネスで欠かせない「契約」行為においては、そうした締結・管理における作業の手間や費用よりも、契約を文書にする手前の「契約交渉」のほうが一般ビジネスパーソンにとってのペインが高かったという事実。このことは、先日一部を公開したコントラクトギルドの調査によって明らかにされましたが、年に2回開いても「契約書でバトルする姿を見てみたい」という本能的な動機だけですぐにイベントが満員となる注目度の高さにも現れています。
来年の今頃には、乱立するであろう法律文書の設計・交渉リーガルテックをいかに「選び」、いかに「使いこなし」て戦うかということを争うバトルイベントへと発展していることでしょう。
(橋詰)
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