任天堂の著作物利用ガイドラインを要素分解して見えた3つの疑問
形式的には著作権侵害となるゲーム実況動画。多くのゲームメーカーが黙認を貫く中、任天堂があえて個人の投稿活動を許容するガイドラインを打ち出しました。
任天堂の著作物利用ガイドラインを分解して図にしてみた
自社コンテンツの権利保護に厳しい任天堂が、個人ユーザーによるゲーム実況動画の投稿については許容するとした「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」をリリースし、話題となっています。
このガイドラインについてまず誤解のないよう注意しなければならないのは、任天堂としてゲーム実況等の投稿に必要な著作権をライセンスするとは一切書いていない、という点です。徹頭徹尾、著作権は任天堂のものであることを前提に、
(1)禁止権を行使しない(禁止権を一部放棄する)ケース
(2)禁止権を行使するケース
の2つに大きく分け、それぞれについての基準・考え方を明文化したに過ぎないものであることが、よく読むとわかります。
とはいえ、普通に文章のまま読むと読みづらいのも事実です。そこで、上記2つのケースごとに任天堂が示したルールを要素に分解して図示してみましょう。
(1)禁止権を行使しない(禁止権を一部放棄する)ケース
(2)禁止権を行使するケース
ガイドラインに残る3つの疑問
こうして要素分解された(1)と(2)の図を見ていると、以下①〜③の3点がクリアになっていないのではないかという疑問がでてきます。
①個人事業主は除外されている?
ガイドライン上、「個人のお客様」に対しては著作権侵害を主張しないとする一方で、「法人等の団体」についてはこのガイドラインの対象外、つまり禁止権を行使する対象であることが明記されています。
こうなると、その間の存在ともいうべき、法人化していない個人事業主の投稿はNGとなるのかが不明 であるように思われます。
個人事業主とユーザーとしての個人の境目を分ける基準を明確化するのが難しく、あえて言及するのを避けたのではと想像するのですが、法人化していない個人の「プロシューマー」化が著しい昨今、このグレーゾーンの適用範囲は今後問題となりそうな予感がします。
②音楽・音声が除外されている?
「動画や静止画等」と、影像(映像)は列挙しつつ音(音楽・音声)が許容対象として列挙されていない のが気になりました。
「動画」の中、または最後の「等」の中に音楽・音声も当然に含まれていると読むのが自然だとは思いますが、一方で、Q&Aを読むと
Q5.任天堂のゲーム著作物を利用して創作した動画を、動画の共有サイトへ投稿しました。私はこの動画を販売することができますか。
A5.任天堂のゲーム著作物を利用して創作した動画や音楽、静止画等を、任天堂の許可なく販売しないでください。
とあるように、動画・静止画とは別に「音楽」が明示的に列挙されている記述も見受けられます。これと比較すると、あえて列挙することを避けたようにも見えます。
実際、ゲームの著作権処理において、音楽の権利処理は面倒な部分です。著作権管理団体や作詞作曲家との権利処理に慎重さが求められることもあり、ディフェンシブに「音楽」に対する禁止権の放棄を明言しなかったのかもしれません。
③営利を目的とする投稿が除外されている?
読んでいて最も読みとりにくかったのがこの点です。ガイドライン冒頭の1つ目の箇条書きを読むと
個人であるお客様は、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画等を、営利を目的としない場合に限り、投稿することができます。ただし、別途指定するシステムによるときは、投稿を収益化することができます。
と、わざわざ、「営利を目的としない場合に限り」と強調しておきながら、ただし書きで「収益化することができます」と正反対のことを言っています。この部分は少しわかりにくさを生んでいるように思われました。
任天堂が権利を留保していることを警戒し、あえていじわるな読み方をすれば、「営利目的でなくてもゲーム実況が収益化してしまったのなら許容するが、もともと営利目的で配信したゲーム実況が実際に収益化したなら、許容しない」というようにも読めてしまうからです。
とはいえ、普通に考えて収益化可能な配信プログラムを選択している時点で営利目的であることは明らかであることを考えると、「営利を目的としない場合に限り」は、ただし書き以降にはかからない、つまり「別途指定するシステムによるときは、営利を目的として投稿し収益化することができる」と読んでも差し支えないのではないか、と推測しています。
「著作物の利用権を認めるライセンス契約」ではない
ということで、著作物利用ガイドラインという名前ではありますが、「利用する権利を認める」ライセンス契約とは少し異なるスタンスである、いうなれば、利用規約に定めた禁止事項をより精緻に明確化したものに近いことが、よく読むと分かるのではないでしょうか。
権利者としてどうしてもこのようなディフェンシブな言い方になってしまうのは、いたしかたのないことです。その理由はいくつかありますが、権利を「与える」構成、つまり正面からライセンス契約をするという構成にしてしまうと、与えた権利を利用したことによってその利用者に問題が発生した場合、保証もしなければならなくなる、つまり本来負わなくてもよかったはずの新たな責任を背負うことにもなりかねないからです。
ちなみに、そうしたリスクをある程度覚悟しつつ、ライセンス付与型のガイドラインを打ち出している事例も存在します。スクウェアエニックス社のファイナルファンタジーシリーズなどが、その一例です。
▼ 『FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGE』 著作物利用許諾条件
もちろん、こうしたライセンス付与型のガイドラインにおいても、権利は付与するがその権利を利用した損害については責任を負わない、といった最低限のリスクヘッジはされています。
しかしながら、 ゲームメーカーの代表格である任天堂が、あえてゲーム実況動画の投稿を許容する宣言をしたことは、実況動画の投稿と視聴を通じて喜び・楽しみを広く分かち合いたいゲームユーザーにとって大きな一歩であり、コンテンツ業界全般に対しても大きな影響を与えることは間違いありません。
(橋詰)
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