デジタル・プラットフォーマー規制の本格検討開始
経済産業省・公正取引委員会・総務省が、インターネット上のプラットフォームビジネスに対する規制について検討を開始したとのリリース。デジタル・プラットフォーマーの横暴を防ぐための有効な手立てとは。
経産省・公取・総務省が連名で動き出した
GAFAに代表される巨大なデジタル・プラットフォーマー達。こうした存在が圧倒的な技術力でインターネットビジネスの市場を独占し、法的には利用規約への同意を盾に、ユーザーを軽視する行動に走っているのではないか。
こうした問題意識は、Googleのようにインターネットに流れる情報を支配する企業や、Appleのようにデバイスやマーケットからエコシステムを支配する企業が台頭するにつれ、高まる一方となっています。日本でも、特にそうしたプラットフォーマーらとの取引量の多いスマートフォンゲーム業界を中心に、批判の声が挙がっていたと思います。
そんな中、ついに 経済産業省・公正取引委員会・総務省が連名で、これに対応するための調査検討を開始 しました。先週末の日経新聞の報道などでも取り上げられています。
▼「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」中間論点整理(案)を公表します
近年,デジタル分野のプラットフォーマー(以下「デジタル・プラットフォーマー」という。)がイノベーションを牽引し,事業者の市場アクセスや消費者の便益向上に貢献している。また,デジタル・プラットフォーマーが製造業等のリアル分野にも事業領域を拡大し,世界の時価総額上位企業を米国や中国のデジタル・プラットフォーマーが占める状況もみられる。
他方,こうしたデジタル・プラットフォーマーを巡っては,取引条件の不透明・不公正,データ寡占,個人情報漏洩,プラットフォーム上での違法・不適切な行為等の問題点が我が国を含め,世界的に指摘されている。
こうした中,経済産業省,公正取引委員会及び総務省は,平成30年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」において,プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備のために,本年中に基本原則を定め,これに沿った具体的措置を早急に進めるべきものと定められたことを踏まえ,競争政策,情報政策,消費者政策等,多様な知見を有する学識経験者等に参画いただき,「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」(以下「検討会」という。)を,平成30年7月10日に設置し,調査・検討を進めてきた。このたび,中間論点整理(案)が取りまとめられたことを踏まえ,今後は,原則として公開の検討会を開催し,事業者等から広く意見を求め,検討を進めることとする。(別添1.検討会開催要綱 P1より)
初の大規模調査と結果公表
特に注目されるのは、プラットフォーマー側からの圧力もあって表には出にくかった事業者の不平不満が、具体的に文字と数字になって集約された という点でしょう。
アンケートの方法により多少のバイアスはあったとしても、「規約等の一方的変更により不利益を受けているか」という項目に「どちらともいえない」でも「わからない」でもなく、90%近くが「はい」と回答している点などは、事業者の不満の強さをひしひしと感じさせます。
私自身も、『アプリ法務ハンドブック』等でプラットフォーマーの利用規約に対する問題提起をしていたこともあり、各省庁から個別に公式・非公式のヒアリングを何度か受け、その一部を各検討会等や内部で参考にしていただいた経緯はありました。しかし今回のように、2,000事業者に渡る大規模で意見がまとめられ、公表までされたのは、今回が初めてだと思います。
事実上のインターネット規制とならないためにはどうすべきか
一方で、少し気になるのが、この動きが プラットフォームビジネスそのものをダイレクトに規制する法令・規制づくりへという結論ありきの議論になっているのではないか、という点です。
その兆候は、冒頭引用した3省発表資料の「ルール整備」「本年中に基本原則」といったフレーズや、当該資料に添付された参考資料にも現れています。特に経産省のアンケート調査結果速報の冒頭に、唐突にEUのプラットフォーマー規制法案の解説が図解入りでまとめられているところに、そうした思惑を強く感じました。
本検討開始の動機が、政府の「未来投資戦略2018」に基づく国際競争力の強化にある以上、EUがそうくるなら日本も遅れをとるまい、という発想とならざるを得ないところでしょう。そしておそらく、「ICTやデータを活用して第三者に「場」を提供する」(中間論点整理案P1より)デジタル・プラットフォーマーのうち、一定規模に達した者すべてに規制をかけるという発想になっていくのだろうと推測します。しかし、それはほとんどのインターネットビジネスを事前規制していくのとほぼ同義であり、好ましい結果を生むとは思えません。個人情報保護法のような規制がもっと強力であれば、ケンブリッジ・アナリティカ事件のようなデータの寡占とその悪用は防げたのでしょうか?
デジタル・プラットフォーマーが異常な行為に走ったとき、現状は、そのプラットフォームのユーザーらが起こす反対運動としての「炎上」騒ぎがそれに対抗するほぼ唯一の手段となっています。こうした現状をみるにつけ、インターネットがビジネスの拡大(もっと言えば寡占)を容易にしたように、インターネットによってトラブル・紛争解決を迅速かつ低コストにする仕組みを法制度面からも支援することで、プラットフォーマーの横暴を抑制しユーザーの利益保護とバランスする、そのような方向性も検討すべきなのではないかと考えます。
(橋詰)
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