契約書・見積書・請求書を作成する際のフォントの選び方【和文契約書編】
弁護士や企業法務のプロフェッショナルたちは、どのフォントを使って契約書を作成しているのか?前回の英文契約書編に続く、和文契約書編です。契約書・見積書・請求書フォントを選ぶ3つのポイントや人気のフォントについても解説しますので、契約書等の書類のフォント選びにお悩みの方は参考にしてみてください。
MS明朝が独占する契約書フォント市場
前回の記事でも取り上げたように、英文契約書においてどのフォントを選ぶべきかは、タイポグラフィの専門家も交えて一大論争があります。
それに対し、和文の契約書において「どのフォントを使うべきか」という論争は、あまり聞くことはありません。
和文の契約書式に関する専門書を探してみても、フォントの選び方について述べているものはほとんど見つかりません。私が確認できた中では、花野信子『ビジネス契約書の基本知識と実務』(民事法研究会、2008)P28にある、以下記載のみです。
原則として、方式自由である以上、契約書の作成にあたって、どのような紙にどのような字体で作成し、 どのように綴っても自由である。 もっとも、通常A4判の白紙に、明朝もしくはゴシック等のフォントを用い、横書きで作成され、左側を綴じる。
実際、フォーマルなビジネス文書のほとんどがMS明朝で作成 されており、たまにそれとは異なるフォントで作成された文書を見ると、それだけで目立ってしまうというのが現状です。
Twitterで契約書のプロフェッショナルにアンケートを取ってみても、その市場独占ぶりは一目瞭然の結果となりました。
今後もMS明朝一強状態が続くのか?MS明朝以外を選ぶとすれば今後注目のフォントはどれか?検討してみたいと思います。
契約書・見積書・請求書フォントを選ぶ3つのポイント
契約書・見積書・請求書を作成する際のフォントについて、法的に決められていることはありませんが、フォント選びで気をつけておきたい点はいくつかあります。書類作成を担当している方は各ポイントを確認しておきましょう。
TPOに合ったフォントを選ぶ
契約書・見積書・請求書などの書類はいずれも取引先と相互に取り交わす書類になるため、TPOに合ったフォントを選びましょう。たとえば丸文字や手書きを摸したようなフォントはくだけた印象を持たれやすいため避けるべきです。
契約書・見積書・請求書などの書類を作成する際は、社外の方が見ることを意識して、見やすくかつフォーマルな印象を与えるフォントを選ぶように気をつけましょう。
社内の他の書類や過去の書類と合わせる
フォントの統一感がないと取引先が書類を受け取った際に「この会社は書類のフォーマットを統一していないのだろうか」と乱雑な印象を抱かれる可能性があるため、社内の他の書類や過去に他の担当者が送付した書類とできる限りフォントを合わせるのがよいでしょう。
ただし、書類の種類によってはあえていつもと異なるフォントを利用することもありますので、社内で相談しながらケースバイケースで使い分けるようにしましょう。
環境依存文字は避ける
特定の環境下で利用するために作られたフォント(環境依存文字)の利用は避けましょう。環境依存文字を利用すると、取引先のOSによっては文字の見え方が送付元と違ってしまったり、文字化けにより文字を読み取れなかったりなどのトラブルが起こる可能性があるためです。
和文契約書で使われる人気フォント
(1)MS明朝
冒頭のアンケートでもご覧いただいたとおり、今のところ圧倒的王者のMS明朝。株式会社リコーが開発し、MSゴシックとともにMicrosoft Windowsに標準フォントとして採用されました。
タイトルや条見出しのみMSゴシックにするなどの工夫を加えることはあっても、本文はほとんどの契約書がMS明朝で作成されているのが現状だと思います。体感値でも、契約書が10通あれば8通はMS明朝なので、アンケートの数字には納得感があります。
プリントアウトすれば見やすいと思うのですが、画面上では必ずしも見やすいフォントとは言えません。だからこそ、他のフォントを使って契約書を作成してみよう、というチャレンジャーが現れるのでしょう。
(2)メイリオ
Windows Vista以降の日本語用システムフォントとして開発され、人気を博したのがメイリオです。
画面上でも印刷しても「明瞭」だからメイリオ。たしかに名前のとおり、くっきりとした存在感のある文字となっています。それだけに、Powerpointでのプレゼンテーションには向くが、Wordの文書にはクセが強すぎて向かない、という意見も多く耳にします。
加えて、Windowsシステムフォントが後述する游シリーズに変更になったところを見ると、継続性にも疑問符がつくところです。
(3)游ゴシック
最近契約書のプロフェッショナル達の支持を集めはじめているのが、字游工房が開発した「游」フォントシリーズです。
メイリオとは対照的な、細くすっきりとしたやわらかいデザイン が印象的です。
WindowsとMacの双方に搭載されたことも普及の理由ではあると思いますが、この游フォントの一部をアレンジした「Yu Ghothic UI」フォントがWindows10のシステムフォントとして採用されたことが、游ゴシック人気に火を付けた感があります。
(4)その他
Twitterアンケートでは選択肢に挙がらなかったフォントの中で、
- 游明朝
- ヒラギノ角ゴ
- MS Pゴシック
にも愛用者がいらっしゃるとの声をいただきました。特に、游明朝は、游ゴシックと並んで支持する声が多く 聞かれます。
なお、クラウドサインをご利用いただくと利用できる公式ひな形シリーズでは、現状ヒラギノを基本フォントとしています。
和文契約書で使われる人気数字フォント
Arial
1982年に制作されたサンセリフ体の欧文用フォントです。マイクロソフトのWindowsやAppleのmacOSなどに搭載されているため、比較的馴染みのあるフォントでしょう。
Arialはゴシック体との相性がよいため、日本語がゴシック体で書かれている場合の数字フォントとして選ばれることが多いです。
MSPゴシック
Microsoft Windows 日本語版に標準で搭載されているゴシック体の和文フォントです。Windowsには1992年から搭載されているため、Windowsユーザーには昔から親しまれてきたフォントと言えるでしょう。
ちなみに、MSPゴシックのような末尾に「P」のついているフォントは「プロポーショナルフォント」とも呼ばれます。プロポーショナルフォントとは、文字ごとに違う幅を持つように調節されたフォントのことで、文字を並べた時に読みやすくなるよう工夫されています。
文字の間がきちんと詰められているために整えられた印象をもたれやすいフォントなので、一般的なビジネス文書で選ばれやすいフォントと言えるでしょう。
電子契約時代の契約書標準フォントは「游」シリーズか
振り返ってみれば、MS明朝もメイリオも游ゴシックも、すべてWindowsのシステムフォントという事実。こう見てみると、和文契約書でよく用いられてきたフォントの歴史は、つまるところOSとしてのWindowsがこれまで採用してきた標準システムフォントの歴史にほかならないことがわかります。
そしてもう一つ、契約書を紙とハンコを使って締結している限り、紙で印刷した際に視認しやすければフォントが問題視されることもないわけですが、ほとんどの契約書が紙で結ばれてきた現状では、Windowスタート当初から見慣れているMS明朝のまま変えなくても大きな不満が発生しなかったから、ということも大きかったのでしょう。
ただし、今後紙とハンコの契約書から電子契約へと移行することになれば、紙に加えてスクリーンでも視認しやすいフォントがMS明朝一強状態を崩していく ことになるはずです。
そしてそのときの最有力候補は、OSが採用するシステムフォントに大きく影響を受けてきた歴史を踏まえれば、游ゴシック・游明朝の「游」シリーズなのではないか、と予測します。
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