収入印紙の節約法—法令と通達で認められた6つの節税テクニック
収入印紙の節約方法でベストなのは電子契約を導入することですが、それ以外の工夫もあわせて合計6つの節税テクニックをご紹介します。適法となる根拠法令・通達もあわせて確認しておきましょう。
1.電子契約で締結する
契約当事者両者ともに収入印紙を貼る必要がなくなり、収入印紙に印鑑で消印をする手間も発生せず、かつ契約としても有効性が確保される、考えうる限りベストの方法が、印紙税が不課税となる電子契約で締結する 方法です。
電子契約であれば収入印紙を貼らなくても良いのは本当なのか?この点はよくご質問をいただくので、別途記事でその根拠を整理しています。
→ 電子契約で収入印紙が不要となる理由—根拠通達と3つの当局見解
この記事にも記載のとおり、印紙税が不課税となる根拠は4つほどありますが、ポイントは、印紙税法基本通達第44条です。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき 用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
この通達に記載された「用紙等に課税事項を記載し行使」する、つまり紙の書面に書いて交付することが「作成」行為となります。
一方、電子データは紙ではありませんし、送信はしますが交付はしません。電子契約(データ)を締結(送信)することは課税文書の「作成」に該当せず、したがって印紙税は課税されないというわけです。
注文書は紙で作成し交付するものの、注文請書は紙で作成せずに電子メールで注文者に返信する、というテクニックもビジネスの現場ではよく使われていますが、それもこの電子契約による節税方法のアレンジバージョンと言ってよいでしょう。
2.契約書に消費税額の区分記載・税抜価格記載をする
契約書を作成する場合に、消費税額を区分記載するか、税込価格及び税抜価格を記載する ことで、印紙税を節税できる場合があります。
根拠となるのは、平成元年3月10日付通達「消費税法の改正等に伴う印紙税の取扱いについて」です(改正平成16年課消3-5、課審7-3)。
印紙税法(略)別表第1の課税物件表の課税物件欄に掲げる文書のうち、次の文書に消費税及び地方消費税の金額(以下「消費税額等」という。)が区分記載されている場合又は税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかである場合には、消費税額等は記載金額(略)に含めないものとする。(平16課消3-5改正)
(1) 第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)
(2) 第2号文書(請負に関する契約書)
(3) 第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)
具体例を挙げてみましょう。例えば、2号文書に該当する建設工事の請負契約書で、
例1 請負金額 1,080万円(税込)
とだけ記載した場合は、記載金額が1,080万円であると判定され、2万円の収入印紙を貼付する必要があります。これに対し、以下例2〜4のように、工事金額と税額が区分表記されていれば、記載金額は1,000万円と判定され、1万円の収入印紙で済みます。
例2 請負金額 1,080万円(税抜価格1,000万円、消費税および地方消費税80万円)
例3 請負金額 1,080万円(内 消費税および地方消費税80万円)
例4 請負金額 1,000万円 消費税および地方消費税80万円 計1,080万円
細かいですが、契約書を作成する法務担当者は絶対に抑えておきたいテクニックです。
なお、この取扱いの適用がある課税文書は、通達に列挙される第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)、第2号文書(請負に関する契約書)、第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)の3種類のみです。
3.契約書2通分とも収入印紙相当額を相手方に負担させる
印紙税法上、収入印紙のコストは、文書作成者である契約当事者のどちらが負担してもよい ことになっています。
実際の商慣習上は、契約書を当事者2通作成すれば1通分を相手方が、もう1通分は当社が収入印紙代を負担するのが通常です。この点、印紙税法第3条2項を見ても、
第三条 (1項省略)
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
このように 連帯して印紙税を納税 する義務規定も定められています。
ところが、印紙税法基本通達第47条を紐解いてみると、
第47条 一の課税文書を2以上の者が共同作成した場合における印紙税の納税義務は、当該文書の印紙税の全額について共同作成者全員に対してそれぞれ各別に成立するのであるが、そのうちの1人が納税義務を履行すれば当該2以上の者全員の納税義務が消滅するのであるから留意する。
このように、法令上も通達上も特に「按分」までは義務付けていません。契約当事者のどちらかが全員分を納税すれば、残りの当事者の納税義務はなくなる、とまで明記されています。
したがって、交渉により印紙税2通分の収入印紙費用をともに相手方に負担させること自体は、税法上の問題はありません。ただし、下請法の適用を受ける取引において、収入印紙費用について一方的に負担を強いることは注意が必要です。
4.契約書を1通だけ作成する
原本としての契約書を1通だけ作成し、相手方には収入印紙を貼付して納税してもらう一方、当社側はそのコピーを保管するにとどめる、という方法です。
契約書原本は相手方が保有することになりますが、その原本には当社の印影があることから、よほどのことがなければ改ざんされないであろうことを前提とし、さらに相手が保有分の収入印紙を適法に貼付することに期待するわけです。
ただし、この方法では、
- 当社にはコピーしかないため、当社から訴訟を提起する際に(文書の真正な成立を争われるなど)面倒になる
- 相手方に契約書を紛失されてしまうと、いよいよ原本が存在しなかったことになってしまう
- 相手方が正しい印紙税額の貼付を怠った・拒否した場合、(上記3で説明した)印紙税法第3条2項の連帯責任により、理論上当社も過怠税のペナルティを受ける可能性がある
という問題もあります。
金銭消費貸借契約などでこのテクニックがよく使われます。お金を借りる側は金銭を受領した後は期日までに返済すればよいといった、債権債務関係がシンプルな契約だからです。必ずしもすべての契約書でおすすめするものではありません。
なお、契約書原本に 「本契約締結の証として原本を1通、その写しを1通作成し、・・・」といった記載をしてしまうと、写しも契約成立の証であるという当事者間の了解が明らかにされているため、コピーも課税文書となってしまう ことに注意が必要です。
5.国外(海外)で契約を締結する
印紙税法は日本国の国内法であるため、適用地域も日本国内に限定 されます。このことから、課税文書を作成した場所が国外(海外)であれば、印紙税は不課税となり収入印紙を貼付しなくてよいという解釈が導かれます。
「課税文書を作成した場所」が日本国内か国外であるかの判断は、文書の作成の時を基準とします。そして契約書の作成時とは、印紙税法基本通達第44条2項(3)号により、「意思の合致を証明した時」、すなわち両者の署名押印が揃った時点をいいます。よって、複数の契約当事者のうち、最後に署名押印し契約書を完成させた当事者が国外にいた場合、その契約書には収入印紙を貼付する必要はありません。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
2 課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。(平13課消3-12、平18課消3-36改正)
(1) 相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時
(2) 契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書 当該証明の時
(3) 一定事項の付け込み証明をすることを目的として作成される課税文書 当該最初の付け込みの時
(4) 認証を受けることにより効力が生ずることとなる課税文書 当該認証の時
(5) 第5号文書のうち新設分割計画書 本店に備え置く時
ただ、契約書に「○○国で作成し締結した」と書いただけで、実は日本国内で文書を作成し締結したような場合は、課税対象となります。
外国企業と契約書を締結する際には、最終調印を国外にいる外国企業にしてもらうほうが印紙税的にはベター です。
6.契約書を作成しない
オススメは決してしませんが、契約金額によっては そもそも契約書を作成しないという割り切り も、一つの方法かもしれません。
実際、印紙税法第2条および3条には、
(課税物件)
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。(納税義務者)
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
とあり、文書をそもそも作成しない口約束では「課税文書」が発生せず、収入印紙を貼る必要はなくなります(貼れませんし)。
とは言っても、契約の内容について証拠が一切残らないのも困りものです。ということで、以前ご紹介したボイス契約アプリを使って、口約束を録音して契約するなんていうのも、契約のリ・デザインの一つの姿かもしれません。
以上、6つの節税法についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
「収入印紙の節約」という目的だけをとってみても、電子契約を採用するのが一番すっきりとした解決策であることがお分かりいただけたのではないかと思います。
参考文献
- 馬場則行『Q&A印紙税の実務』(納税協会連合会、2018)
- 山端美德・野川悟志『改訂版 間違うと痛い!!印紙税の実務Q&A』(大蔵財務協会、2018)
- 木村剛志『改訂四版 実務に活かす印紙税の知識』(税務研究会出版局、2015)
- 都築巌「印紙税調査の実際と税理士対応」(税経通信、2015.09)
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