【レポート】ブロックチェーン&スマートコントラクトの「限界」と「危うさ」を詳らかにする第3回オープンラボ
慶應義塾大学SFC研究所リーガルデザイン・ラボが主催する「オープンラボ」。デジタルハリウッド大学大学院の協賛で8月10日に開催された第3回は、リーガルテックとも関係が深いブロックチェーンがテーマに選ばれました。
斉藤賢爾氏「ブロックチェーン《の・ようなもの》と『法』」
ゲストスピーカーのお一人目は、慶應義塾大学SFC研究所 上席所員の斉藤賢爾氏。『信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来』(インプレスR&D, 2017)の著者でもいらっしゃいます。
「ブロックチェーン《の・ようなもの》と「法」」と題し、現時点のブロックチェーン技術が抱える技術的な限界を、イーサリアムのThe DAO事件やモナコインで起きたBlock Withholding Attackなどを例に挙げて解説。
その上で、そうした技術を使ってプラットフォームや開発者たちが立法・司法・行政の働きすら担っていき、これまでの政治を支えてきた国家・専門分化・貨幣の「三つ巴」を衰退させていくのではないかという、大胆な未来予想が披露されました。
曾川景介氏「merpay in Legal Desgin Lab」
お二人目は、WebPay、LINEPayを開発後、株式会社メルペイ取締役CTOとして活躍されている曾川景介氏です。
「merpay in Legal Desgin Lab」と題し、メルペイ事業をはじめるまでの詳しい経緯、メルペイのビジョン「信用を創造して、なめらかな社会を創る」とブロックチェーンの関わり、そしてアプリケーションレイヤーの事業者としてブロックチェーン技術を扱う中で感じる、わからないものを「なんとなく安全」と盲目的に信じてしまうことの危うさについて、プレゼンテーションがありました。
ディスカッション「スマートコントラクトの現状と課題」
いつものオープンラボであれば、研究員の水野祐氏による小括を挟んでからのパネルディスカッションとなるところでしたが、今回は、プレゼンテーションを終えるやいなや、曾川氏が斉藤氏を質問攻めにするスタイルでテーマを深ぼっていく流れとなりました。
ブロックチェーン技術の応用方法として有望視されている「スマートコントラクト」について、斉藤氏・曾川氏のお考えと見解をクリアに伺うことができたことが、このディスカッションでの最大の収穫だったと思います。
特に、
- イーサリアムで言えば、外界との接触・リンクを前提とした設計となっていない
- VR空間のようなオンライン世界におけるデジタルアセット移転などは得意だが、オフライン世界と接続しようとすると、その接続を取り持つ「媒介者」をトラストしなければならず、元々のトラストレスな設計思想と相反する
- 法律家たちが期待しているような、現実世界の契約を完全自動化してなめらかにする「スマートリーガルコントラクト」を実現するには、あらゆる例外をコード(プログラム)に書き込まなければならないように思われるが、それは現時点では不可能
- 「このシチュエーションであれば、このコード(プログラム)を使って捌いたほうがいいね」といった、シチュエーションを理解できる深層学習的な人工知能(強いAI)を使う必要があり、現在のAIではまだ難しい
と、お二人ともにはっきりと断言されていたのが、非常に印象的でした。
すべての例外をコード化するのは難しい
法務担当者として、日常生活で使いなれている自然言語を使って契約書を書いていても、取引で発生するあらゆる例外に対応可能な条項を書くことは困難なものです。
にもかかわらず、イーサリアム上で動くコード(プログラム)に、考えつくすべてのシチュエーション・例外を処理できる条件式を、誰がどうやって書こうというのか?そのことは疑問としては当然に持っていながら、疑問に思わないよう見て見ぬふりをしていたというのが正直なところでした。
ブロックチェーンの最先端を知るお二人から「そんなものを作ろうとしても(少なくともイーサリアムでは)無理ですよ」とおっしゃっていただいたおかげで、スマートコントラクト・ビジネスの現実的ゴールがイメージできたように思います。
デジタルハリウッド大学大学院の協賛で開催されるオープンラボ。第4回以降も、協賛および共同研究を希望する企業及び団体を募集中です。希望される方は、こちらのフォームからご連絡ください。
(橋詰)
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