印紙税の税務調査とは?印紙税調査対応の実務や具体的な流れとポイントを解説
紙の契約書に収入印紙を貼ることで納付する印紙税。納付漏れが税務調査により発見されると、印紙税法違反として企業のレピュテーションリスクにもつながります。
実際の国税局・税務署による調査がどのように行われるのか、ポイントをまとめました。
印紙税の税務調査とは
税務調査とは、国税庁や税務署が法人や個人が適正に納税しているかどうかを確認するために行う調査です。税務調査では税務当局が帳簿や領収書、請求書といった証憑書類などから事業におけるお金の流れを確認します。もし納付漏れや脱税などが見つかった場合は、修正申告を求められる上、延滞税や重加算税などのペナルティまたは罰金や懲役などの刑事罰が科される可能性もあります。
税務調査の対象は法人税、相続税など多岐に渡りますが、印紙税も調査対象になります。もちろん、契約書に貼り付ける収入印紙についても適切に納付されているか確認が行われるので、収入印紙の貼り忘れや納付金額の間違いには気をつけましょう。
印紙税税務調査の位置付けと管轄
印紙税の税務調査は、その契機(きっかけ)や対象企業の資本金の額により、調査の位置付けおよび管轄が異なります。
同時指導と単独調査
同時指導とは、法人税や所得税の税務調査の際に、不納付文書が見つかったことをきっかけとして行政指導を行うものをいいます。一方、単独調査とは、印紙税のみを調査の選定税目として行うものをいいます。
調査の徹底度合いとしては、当然に同時指導より単独調査の方が上になります。なお、印紙税のみの単独調査がなされることは相当珍しいようです。私も10年以上担当した中で、単独調査を受けた経験は数回程度です。
管轄する税務当局
国税局が印紙税の税務調査を行うのは、資本金が50億円以上の会社が対象です。ただし、50億円未満であっても、国税局の判断により調査対象として指定されることがあります。上記以外の会社・会社以外の法人(協同組合など)・個人は、原則として税務署による調査の対象となります。
なおこの「資本金50億円」をボーダーラインとする区分は、法律や通達には記載されていません。東京国税局の電話相談センターにこの区分の根拠を取材したところ、内部の事務運営規程に定められているのみとのことでした。
印紙税の税務調査の具体的な流れと手法
以下、一般的な印紙税税務調査の流れと手法について、ポイントをピックアップしてみます。
調査日の決定
通常は、電話により実施予定日から2週間程度の間をおいて打診があり、会社都合と調整して調査日を決定します。印紙税の調査については、労働基準監督署の臨検などとは異なり、突然来訪されて抜き打ちで行われる、ということは滅多にありません。
企業の担当者は、この連絡を受けてから調査日までの期間に、説明資料や契約書を準備することになります。
手順と期間
企業規模や、契約書の管理状況等によっても変わってくると思いますが、経験上、以下の3つを軸に調査が進められます。
- 会社概要・決算書・総勘定元帳・社内規程等の閲覧
- 契約書等課税対象文書の調査
- 担当者へのヒアリング
期間についても会社規模や契約書の通数次第と思われますが、調査官の作業のための部屋(会議室)を用意し、契約書ファイルをまとめて閲覧できるような環境を提供できれば、1〜2日程度の調査で終了することが多いと思います。
調査の具体的方法
課税物件となる契約書に対し、収入印紙が適切に貼付され消印されているかを、職員が直接チェックします。
押印管理簿等を閲覧し、会社のすべての押印書類について連番を振るなどの管理が徹底されていれば、それらの書類の閲覧と、その範囲で発見された納付漏れ等が指摘されるだけで終了するのが通常です。しかしながら、そうした管理がなされていない場合は、さらに徹底した調査手法が取られることがあります。
以下は、都築巌「印紙税調査の実際と税理士対応」(税経通信2015.09)で紹介されている事例です。
- 会社の社内の事務机を眺めながら、様々な文書を把握していき、その中に課税文書らしきものがあれば、それらを収集し、検討していき、課否判定をする方法
- 会社が作成している各種書類や証憑類などの印刷業者を確認し、当該印刷業者からの納品書などから印刷発注している文書等を把握し、全ての文書のひな形を提出させ、作成要領や方法、使用目的などを確認しながら課否判定をする方法
- 印紙の受払簿において払い出している印紙の枚数や金額と実際に貼付している文書の枚数とを対査させて、払出枚数と課税文書の貼付枚数との差額を不納付として認定する方法
- 同業者において把握された大量の不納付について、他の同業者に対して調査を行い、不納付事実を把握する方法
印紙税の納付漏れのリスクは意外に低くない
契約書に収入印紙を貼り忘れ、納付漏れとなった場合の主なリスクとして、過怠税とレピュテーションリスクの2つがあります。
過怠税
納付漏れがあった場合、原則としては、納付しなかった印紙税の額に加えてその2倍に相当する金額との合計額、つまりもともと納付すべき印紙税の額の3倍に相当する金額が徴収されることになります。これを過怠税(かたいぜい)といいます(印紙税法第20条1項)。かなり厳しいペナルティです。
そのため、救済を目的として第20条2項に以下のような規程があり、自主的に不納付を申し出たときは、これが1.1倍まで軽減される措置が適用されます。
第二十条 (1項省略)
2 前項に規定する課税文書の作成者から当該課税文書に係る印紙税の納税地の所轄税務署長に対し、政令で定めるところにより、当該課税文書について印紙税を納付していない旨の申出があり、かつ、その申出が印紙税についての調査があつたことにより当該申出に係る課税文書について国税通則法第三十二条第一項(賦課決定)の規定による前項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該課税文書に係る同項の過怠税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付しなかつた印紙税の額と当該印紙税の額に百分の十の割合を乗じて計算した金額との合計額に相当する金額とする。
この申し出を行うにあたり、いつまでにといった期限はあるのでしょうか。たとえば、税務調査で指摘を受けるまで気づかなかった場合、自主的な申し出とはならないのでしょうか。
この点、税務調査の実務では、条文中の「前項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでないときは」の範囲が幅広く解釈されて運用されており、よほど悪質な事案でない限り、指摘を受けて「印紙税不納付事実申出書」を税務署に提出すれば、過怠税は1.1倍で済むことがほとんどと言われています(八ツ尾順一『入門税務調査』法律文化社、2014年)。ただし、調査官によっては対応が異なる場合もありますので、注意が必要です。
レピュテーションリスク
現実問題として、過怠税よりも影響が大きいのは、印紙税の納付漏れ事件として報道されることによるレピュテーションリスクです。
意図的なものではなくても、まるで脱税事件かのように報道されてしまうおそれがあります。
対応策としての電子契約
収入印紙を貼るべき契約書をもれなく把握し、税額判定を誤らないようにないようなチェック体制を用意するのは、印紙代以上に体制維持コストがかかります。
そうしたコストを削減するためにも、印紙税が課税されない電子契約をご検討いただければと思います。
参考: 印紙税とは?電子契約で収入印紙が不要となる理由と印紙税法の解説
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