18歳を成年年齢とする改正民法に対応した利用規約の作り方


改正民法が可決・成立し、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳へと変更されます。BtoCビジネスの利用規約において改正タイミングに備えて注意すべき点をピックアップします。

民法が定める成年とは

2018年6月13日に民法の一部を改正する法律が可決・成立し、成年年齢を18歳へ引き下げ、女子の婚姻開始(可能)年齢を18歳へ引き上げることが決まりました。改正に至った経緯については参議院常任委員会調査室「民法の成年年齢引下げの意義と課題(PDFファイル)」に、また法改正の内容については、法務省ウェブサイト「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」に、それぞれ詳しい説明があります。

法務省 民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について 改正の概要
法務省 民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について 改正の概要

そもそも、民法が定める「成年」とは、どのような定義なのでしょうか?今回、改正されることとなった民法第4条と、それに続く第5条を見てみましょう。

第四条 年齢二十歳をもって、成年とする。
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

今回改正される第4条自体は、単に成年=20歳(改正民法により18歳)であることを述べただけのものです。これに続く第5条で、成年に満たない「未成年者」による単独の法律行為を制限していることと対比してはじめて、成年とは、法律行為を単独でなしうる行為能力者となる年齢であることが分かります。

なお、報道でよく使われる「成人」「成人年齢」という言い方は、民法上は正確ではありません。民法の条文上は「成人」の語は使われておらず、また民法以外の法律において「成人」の語が使われているのは、国民の祝日に関する法律・少年法・児童福祉法等の6つのみです。対して「成年」は262の法律で使用されています(2018年6月14日現在)。ゆくゆくは「成年者」「成年」に統一されていくのかもしれません。

成年者が大量発生するXデーは2022年4月1日

成年年齢の見直しは、明治9年の太政官布告以来約140年ぶりの大イベントです。それだけでも社会的に大きなインパクトがありそうですが、企業の契約実務、特にBtoCビジネスにおける利用規約実務において、少々問題をはらみそうです。

というのも、多くの利用規約で、未成年者の利用を想定して以下のような条項が設けられているためです。

第x条 20歳未満の方は、保護者の方が本規約に同意された場合のみ、本サービスをご利用頂くことができます。20歳未満の方が本サービスを利用した場合、保護者の同意があったものとみなします。

これは、単独の法律行為が規制されている未成年者によるサービス利用を想定し、事実上その同意があったにもかかわらず、本人や保護者から「民法第5条の法定代理人の同意は無かった」と契約の取消を主張された場合に備えて、企業がディフェンスのために設けている典型条項です(後段の「みなし同意」文言が有効なのか、という議論は別途あります)。

ウェブサービスやアプリサービスの利用規約をざっと検索してみると、年齢ごとにサービス課金上限額を設定する必要があるなどの様々な事情もあり、上記例のように「20歳未満は法定代理人の同意が必要」と、年齢を直接記載している利用規約は数多く存在します。このような規約は、遅くとも2022年4月1日までに年齢を変更する改定の必要がでてきます。

また、この影響は利用規約の変更の問題に止まりません。2022年3月31日時点で18歳〜19歳の「未成年ユーザー」が、次の日には改正民法施行により「成年ユーザー」として扱われることになり、サービスによっては数千〜数万人単位でユーザーのステータスを変更することにもなります。こうした実務的な対応の準備やシミュレーションも必要となってくるでしょう。

今からできる利用規約の成年年齢改正対応

とはいえ、2022年3月まで有効な現行民法では、あくまで20歳未満が未成年者です。今からすぐに利用規約を「18歳未満は未成年者」と書き換えるわけにはいきません。

対応策としては、年齢を記載せずに「未成年者」とだけ規定する方法が有効でしょう。例えば、私も共著している『アプリ法務ハンドブック』や『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』では、下記のような「未成年者」の語を使った条項案をサンプルとして提示しています。

第x条 お客様が未成年者である場合は、親権者など法定代理人の同意(本規約への同意を含みます)を得たうえで本サービスをを利用してください。また、本契約に同意した時点で未成年者であったお客様が、成年に達した後に本サービスを利用した場合、未成年者であった間の利用行為を追認したものとみなします。

このような記載であれば2022年を待たずとも改定でき、かつ、2022年4月1日を迎えれば、自動的に未成年者=18歳未満と読み換えられて便利です。

すでに報道等でも懸念の声が上がっているとおり、酒・タバコなどは引き続き20歳からという規制は維持されつつ、民法上は文字通り一人前の成年として扱われるというねじれの中で、18歳前後のユーザーとの契約に関するトラブルは一時的には増えるかもしれません。これに対し、特に若年ユーザーが多いインターネットサービスにおいては、分かりやすい契約や利用規約を追求する企業努力や、教育・啓蒙などの対策などが一層求められるようになるものと思われます。

画像: Graphs / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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