デート商法や霊感商法まで規制する改正消費者契約法のポイントまとめ
改正消費者契約法が可決、成立し2019年6月より施行されます。本法がBtoCビジネスの契約実務にどのような影響を与えるのか、ポイントをまとめました。
消費者契約法とは
消費者契約法は、民法の原則である「契約自由の原則」を制限し、消費者契約において行われがちな不当な勧誘による契約の取消しや不当な契約条項の無効等を規定することで、消費者と事業者との間の「情報格差」を是正し消費者保護を図る法律です。特にBtoCビジネスに関わる企業においては、契約書・利用規約等消費者との契約におけるコンプライアンス上、最も重要な法令の一つとなっています。
消費者契約法は、平成13年(2001年)に施行された後、以下のような改正が重ねられてきました。
改正年 | 内容 |
---|---|
平成13年(2001年) | 消費者契約法施行 |
平成18年(2006年) | 消費者団体訴訟制度を導入 |
平成20年(2008年) | 消費者団体訴訟制度の対象を景品表示法と特定商取引法に拡大 |
平成25年(2013年) | 消費者団体訴訟制度の対象を食品表示法に拡大 |
平成28年(2016年) | 高齢化の進展等に対応し、消費者の取消権等を拡大 |
平成31年(2019年) | (今回改正) |
2018年6月8日に可決された今回の改正は、近年の消費者被害事例をもとに平成28年改正の内容をさらに一歩深め、消費者と事業者の情報格差に加え「交渉力」の格差を解消するための改正と言われています。
改正消費者契約法のポイント
政府が国会に提出した法案の条文および概要は消費者庁ウェブサイトにありますが、後述するとおり、衆議院で修正案が提出された上で可決、成立しました。
今回の改正のポイントは以下大きく3つにまとめることができます。
(1)契約時の内容説明努力義務を明確化(第3条1項)
事業者が、契約内容を消費者にとってわかりやすくし、かつ必要な情報を提供すべきとする努力義務が新設されました。
- 契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるにする
- 消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供する
契約書や利用規約という文書は、詳細に書けば読みにくくなり、シンプルにすれば情報が足りないと言われがちなことを考えると、努力義務とはいえ守るのが難しい義務ができてしまったな、という感想です。
(2)不当な勧誘に基づく契約取消権の追加(第4条3項)
- 進学、就職、結婚、生計といったライフプランに関わる重要事項
- 容姿、体型その他の身体の特徴等に関する重要事項
について、不安をあおって商品やサービスを売りつけた場合、消費者が契約を取り消すことができるようになります。就職や結婚を支援するマッチング・コンシェルジュ的ビジネスは、情報誌の時代からインターネットメディア時代に到る現在まで盛んなビジネスモデルであり、影響は大きいのではないでしょうか。
あわせて、「デート商法」と呼ばれる、好意を抱いていると誤信させた上で関係断絶をチラつかせながら商品・サービスを売りつける商法、そして契約前に事業者が商品・サービス提供を始めてしまう押し売り的な商法などについても、取り消しが可能となりました。この立法の背景には、投資用マンションなどを中心に、近年男女や年齢を問わず具体的被害や訴訟が増えているという実態があるようです(例えば東京高判平27・5・26では、当時30台後半の女性が結婚マッチングサービスで出会った男性から、市価1300万円程度のマンションを2500万円超で購入させられています)。
これらの新しい不当勧誘規制の特徴として、
「当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから」
という要件が条文に定められた点には、法律専門家からの注目が集まっています。そもそも訴訟においてその消費者が「社会生活上の経験が乏しい」要件を満たすことをどうやって立証するのか?「経験が乏しい」ことについて本人に帰責性はないのか?未成年者でもないのにそこまで(過保護に)守らなければならないのか?今回の改正点の中で、個人的にも疑問を感じたところです。
なお、上記政府提案に加え、衆議院において修正案が提出され、
- 加齢又は心身の故障者に対し、生計、健康その他の事項に関し不安をあおる商法
- 霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見で不安をあおる商法
も規制対象に加えられて可決されています(消費者契約法の一部を改正する法律案に対する修正案)。
(3)契約が無効となる不当条項の追加(第8条1項、第8条の3)
事業者が自分の責任を自ら決める条項、たとえば、
「当社が過失のあることを認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負う」
といった契約条項は、無効となることが規定されました。
加えて、認知症などの理由による消費者の後見等を理由とする契約解除の条項、例として
「賃貸人が成年被後見人に該当した場合には、直ちに賃貸借契約を解除できる」
といった契約条項が無効となることが、新たに定められました。
前者については、一般的なウェブサービスの利用規約などにも(ユーザーからのクレーム対応を利用規約の文言を盾に容易にするという安易な目的で)設定してしまいがちな文言だけに、再点検が必要となりそうです。
消費者保護法制の規制強化の流れは止まらない
以上、今回の改正ポイントをまとめてみると、特定商取引法の条文と見間違えそうになるほど、個別具体的なビジネス領域とその取引の手法に立ち入って規制を加えた法律に変容し始めたことがわかります。これまでの消費者契約法の条文は、事業者の契約内容や勧誘の方法に対して広くあまねく網をかける抽象的な規定がほとんどだっただけに、ちょっとした戸惑いすら覚えます。
消費者契約法は、契約の基本原則を定める民法を上書きする特別法であることからも、その運用や改正について常に注目を浴びてきました。特に平成28年の改正において勧誘規制等の新たな導入にまつわる激しい議論の過程があったことは、企業法務に関わる方であれば記憶に新しいところでしょう。しかしながら、今回の改正については、そういった議論の間もなく、有無をも言わさぬ勢いで法案がそのまま可決されたという印象があります。
直近の5年間だけに絞って見てみると、この消費者契約法のみならず、
- 景品表示法(平成25,26年改正)
- 特定商取引法(平成26,28,29年改正)
- 割賦販売法(平成26,28年改正)
など、消費者保護法の改正ペースが加速してきています。今後も、消費者契約に関する問題が発生するたびに個別具体的な文言が追加され、規制が厳格なものになっていく流れにあることは、どうやらまちがいなさそうです。
画像: ケイーゴ・K、poosan/ PIXTA(ピクスタ)
(2018/06/13 橋詰改訂)
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