AIは法律業務を代替できるか?—弁護士北周士先生主催のトークセッションで株式会社コーピー山元浩平CEOに聞く
東京大学大学院情報理工学系研究科、Yahoo!Japan研究所、フランスの研究機関Inria等で人工知能に関する研究を行い、株式会社コーピーを創業した山元CEOに、AIが法律業務を代替する時代は来るか、伺ってみました。
人工知能のプロフェッショナルと現役弁護士とのトークセッション
山元先生は、慶應義塾大学理工学部電子工学科を卒業後、シリコンバレーのスタートアップ、ウェディングプランナー等を経て、東京大学大学院情報理工学系研究科に入学。その後、共同研究として Yahoo!Japan研究所、フランスの研究機関Inria等で人工知能に関する研究を実施。そこで知り合った研究者達と共に、様々な人工知能システムの研究開発を行う株式会社コーピーを創業されたという経歴の持ち主でいらっしゃいます。
4月19日夜に新橋某所で行われたこのトークセッション。弁護士北周士先生が主催するこうしたイベントには何度かお邪魔していますが、いつも北先生が聴講者に配慮をしてくださり、あえて初心者にもわかるようなレベルから専門家に質問をしてくださるので、書籍等で学ぶのとは違った角度からその専門領域の本質に触れることができます。
今回も、
- AIの歴史のおさらい
- 医療・Web広告・画像認識などの分野で実際どのようにAIが用いられ、どのように動作しているか
- 今後AIが人間の業務を代替するにあたり、どのような点が高い壁となっているか(シンボルグラウンディング問題など)
について、1時間弱という短い時間ですっきりと理解することができ、非常に有用なトークセッションとなりました。
人間が業務に落とし込めているものならAIによる代替可能性は高い
トークセッションおよびその後の質問時間では、聴講者の多くが弁護士や法学者とあって、AIによる法律業務の代替可能性について質問が続きました。特に、訴訟における判決文や契約書の作成について、質問者から障害となりそうな要素の説明と合わせ、代替可能性について山元先生の見立てを問う質問が続きました。
これに対する山元先生による回答のポイントをギュッと要約すれば、
「人間が『業務』にブレイクダウンできている、つまりその問題を解くために必要な入力(情報)が何であり、最終的に得たい出力(目的や正解)が何であるか問題設定を行えているものであれば、いずれAIが代替できる可能性が高い」
というもの。
弁護士のみなさんからは、裁判官が様々な証拠を組み合わせてある事実を認定し、判決を下す(判決文を作文する)というプロセスをAIが代替するのは難しいのでは?という意見もありました。これに対し、山元先生からは、法律業務について詳細はわからないというエクスキューズを添えながらも、やはり可能性はあるのではないかとの見解が示されました。
ただし「データさえあれば」の条件付き
ただし、AIがその業務を代替できるようになるためには、機械学習を行わせるのに膨大なデータが必要となることも事実。この点、山元先生も、何度も「コンピューターが特徴量を学習するために、十分なデータを揃えられるか?そこがいつも難しい」と強調されていました。
特に、日本は法律情報のデータ化が遅れています。たとえば世界銀行のレポート「Doing Business」における日本のランキングでも、判決の公開を含む裁判所手続きのIT化・データ化の遅れが減点の対象として槍玉に挙げられています。1%を下回ると言われる判決文の公開割合だけを見ても、閉鎖的という印象のある日本の裁判所がIT化に踏み切りデータを供給するかが、裁判業務をAIで代替するための最初の壁となることは間違いないでしょう。
さらに、最近のリーガルテック市場を見ていると、AIによる契約書作成をビジネスにしようとする企業が次々と誕生しています。一見すると、裁判のAI化よりは格段に容易に代替できそうな分野です。しかしながら、機械学習用のデータを収集する必要性の観点から見ると、制度上は一応公開を前提としている訴訟の判決文以上に入手が難しいのが、民間対民間の生々しい契約交渉の中で生まれそれぞれの社内に眠っている契約書のデータではないでしょうか。
契約交渉過程における契約書の文言の変遷(交渉過程で作成している自社有利バージョン/交渉結果の産物である妥協バージョンそれぞれ)をデータとして収集するにはどうしたらいいか?この方法を見つけ実際に収集できるかが、AIによる契約書自動作成の実用化にあたっての勝負所になる予感がします。
(橋詰)
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