GitHub契約条項集「katax contract-manuals」にプルリクしてタコツボ法務から脱出しよう
「いまだに市販の書式集からコピーしたひな形をコピーして契約書を作ってるとしたら、法務の怠慢ですよ」—そう語るkataxさん。自身がGitHubで公開する契約条項集を使って契約書を一瞬で作成するプロセスを見せてくれました。
日本で初めてGitHub上で契約条項集を公開した男
『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』の著者として有名なkataxさん。ブログ「企業法務について」も、更新頻度は高くないとはいえ、法務担当者にはよく知られた息の長い人気法務ブログです。
そのブログ記事の中で、昨年11月ごろに投稿された「契約条項集をGitHubで公開してみたよ」エントリが、一部で話題になりました。
そもそもGitHubについて、ご存知ない方も多いかもしれません。これはプログラムのソースコードの変更履歴を記録するための分散型バージョン管理システム=Gitの仕組みをベースに、世界中の人々が自分の電子データを保存・公開し、みんなでオープンに協力しながら開発することができるようにしたもの。エンジニアであれば知らない人はいないほど有名なウェブサービスです。
このソースコード管理のためのウェブサービス上で、日本で初めて契約条項集「katax contract-manuals」を公開したのが、kataxさんというわけです。
何やらリーガルテックな、そして「契約の再発明」の匂いもするこの話題。サインのリ・デザイン取材班は、kataxさんがこの度マネジメントに就任された株式会社おいしい健康のオフィスにお邪魔をしました。
実際に契約書をゼロから完成させるまでのプロセスをデモしていただきました
百聞は一見にしかずということで、実際にkataxさんが普段やっている通りに、GitHubにアップロードされた契約条項集から必要な条項をコピーしてWordファイルにペーストし、契約書に仕上げる工程をデモンストレーションしてもらいました。
kataxさんの華麗なショートカットキーさばきもあわせてお楽しみください。
▼【やってみた】GitHub上の契約条項集とWordで契約書を2分で作成(Youtube)
kataxさんのように、Wordで契約書の体裁に整えるところをまでスタイル機能とマクロをきちんと使えば、一般的な契約書はほんの数分でできてしまいます。市販の契約書式集から当てはまる条項を探し、それを読んで手打ちしながら契約書を作成していたら、おそらく30分から1時間ぐらいはかかってしまうはずです。
どうしてこのような契約条項集を公開しようと思ったのか、kataxさんに詳しくお話を伺いました。
法務はもっと生産性を高められる
-どんなきっかけで、契約条項集をGitHubにアップしようと思ったんですか?
昨年の11月に参加した「法務&知財系ライトニングトーク2017 <リーガルテック祭>」で、シティライツ法律事務所の平林健吾先生のLTを聞いたのがきっかけでした。「契約書作りはプログラミングに似ている。コードをモジュール化・ライブラリ化できているんだから、契約書も条項ごとにモジュール化・ライブラリ化できるのでは?」という話でした。
僕も趣味程度にはプログラミングしているので良くわかる話でしたし、同じ発想で僕が作った条項集を当時の法務メンバーにも共有していたので、よし、平林先生に背中を押される形で、これをGitHubに公開してしまえー、と。
-Wordファイルをクラウド上でみんなで更新していくやり方では、ダメなんですかね。
Wordの修正履歴管理機能でも頑張ればやれないことはありませんが、契約条項集をみんなで最新のベストなものに作り上げながら共有するという目的に照らすと、GitHubの履歴管理の仕組みのほうが便利だからです。
Wordはどちらかというと、ファイルというひとまとまりの「文章」全体を版単位でバージョン管理していくのに向いたツールです。GitHubは、もともとソースコードの部分部分の修正過程を管理するものなので、条項集というモジュール・パーツ単位のアップデート履歴を管理するのにもフィットするんです。
-公開した後の反響はいかがですか。
いまのところは、反響はほとんどないですね(笑)。GitHubには、「プルリク(エスト)」と呼ばれる改善提案の仕組みがあるのですが、実際にそれを出してくれたのは、新しもの好きな橋詰さんと、もうお一方ぐらいでした。
-なんで興味を持ってもらえないんでしょうか。思い当たる原因を教えてください。
まず一つが、GitHubの仕組みが法務の方々には難しく「見える」というところがあるかもしれませんね。
これに関しては、Googleで「GitHub プルリク」を検索してみてもらえばすぐに分かると思います。仮に失敗しても本体ファイルにはなんの影響もないので、怖がらずに練習がてらプルリクしてみて欲しいです。すぐに覚えられますよ。
-技術的な障害はそれほど大きくない、と。すると?
大きな理由が、こういう契約条項集の類は、大企業の法務部門や法律事務所では専門的なシステムですでに蓄積されているから、ですね。組織の中にあるからわざわざこんなものをみんなで作らなくても、と思っている。つまり、既にそれなりの品質のものを持っているから、これから公開の場に投稿しようとインセンティブが、普通に考えると湧かないんです。
大企業ではないところの法務部員も、基本的には手元にそういう条項を集めたファイルを作っているでしょう。もし作ってない人がいたら、さすがにそれは「何も仕事してない」って怒られていいレベルですよ。
-しかし、実際のところ自分用条項集をきちんと作っている人はせいぜい50%ぐらいで、30%ぐらいが過去自分が携わった案件のファイルをベースに修正して契約書を作る人、残り20%はその度に市販の書籍や先輩の契約書ファイルを引っ張りだす人では。
過去の契約書を流用するのが適しているケースはごく一部で、多くの場合は避けるべきだと思っています。各契約に合った条件に調整しきれずに、ミスが起きやすいですから。
ただ僕が思うのは、いずれにせよそうした契約条項集が「秘伝のタレ」みたいに大切にしまい込まれているのは、ちょっと違うんじゃないかなあって。
-契約業務が中心になってしまっている現状、法務担当者にとっては、その「秘伝のタレ」こそが自身の食い扶持になっているのでは。
実際契約書の修正交渉って、「てにをは」に毛が生えた程度の修正で終わっていることが多いです。営業・経営的リスク判断を争っている場面において、条項の表現を知っているか知らないかは関係ないですよね。逆に言えば、条項の表現を知っていてもビジネスを知らない人は、その条項集を使いこなせていないはずです。
そう考えると、契約の書式とか条項それ自体って、そんなに大したノウハウじゃないし、この世の中に一個マスター版があればいいと思うんですよ。法務が思っているほど契約書の文章作成技術それ自体に価値はなく、契約というスキームや技術を使ってビジネスを組み立てていくところこそ、法務が時間と知恵を割くべきところだと考えています。
だから、みんなで協力して一番いいマスター版条項集を作り、法的に効果に大差のない修正よりも、もっと本質的な仕事に時間を割けるようにして、法務の生産性をあげましょうよというのが、このcontract-manuals公開で問いかけていることです。
-レシピを無料で公開してしまうのはもったい無い、みたいな気持ちになるんですかね。
いや、料理の作り方のレシピにあたるものは、条項集ではなくビジネスの組み立て方であって、それはみなさんの頭や会社のノウハウとして大切にすべきものです。条項集は料理でいえば素材に過ぎません。素材はみんなで育てて共有し、本来の「調理」の腕を競いませんかと。
契約条項集を後生大事にしまいこんで、「これは俺たち私たちだけのもの」ってやっている限り、法務はタコツボに篭っていると思われてしまいます。残念ですが、それでは社内においても社外においても評価されにくい部門という、これまでの法務部門に対する印象を払拭できないと思います。
(橋詰)
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