ブックレビュー 高橋郁夫ほか『デジタル証拠の法律実務Q&A』
電子契約の時代を迎えるとさらに大きな論点になるであろうデジタル証拠の確保や裁判所への提出方法、その証拠としての価値について、多数の裁判例をもとに分析し、ノウハウを開陳してくださっている本です。
電子署名法の欠陥を指摘
民事訴訟の事実認定や証拠収集に関する書籍は数々ありますが、テープ、フィルム、ディスクといった新種証拠と呼ばれるものの中でも、アナログでない「デジタル」=連続していない飛び飛びの数値に置き換えて処理されたものからなる証拠を、どう取り扱うかに特化している点が特徴です。
本書については、「クラウドサイン法律ガイド」の参考文献リストにも掲載させていただいています。というのも、電子署名の証拠力に関し、現行の電子署名法が抱えているある種の「欠陥」にはっきりと言及している、貴重な書籍だからです。
この条文の構造を見ると、上のように広義の電子署名には、本人だけが行うことができることとなる場合とそうでない場合とがあることが前提となっています。本規定は民事訴訟法228条4項の「推定」と同趣旨であるとされていますが、この3条の成立の真正の推定を及ぼすには、この適正管理性とでもいうべきことを前提事実として主張立証しなければなりません。結果として、実務上、この3条がどれだけの意義があるのかは、あまり明確でないように思われます。(P107-108)
電子証明書を契約全当事者が手間とコストをかけて入手するタイプの電子署名であれば、押印と同じ推定が確実に得られるように見えて、条文構造上はそうとは言えないのではないか。
電子署名法を論じる法律論文をくまなく探せば、この「欠陥」を指摘するものはいくつか存在します。しかし、市販の書籍となると、どうしても電子証明書ビジネスの事業者を支援する立場の法律家の手によるものが多く、この点を意図的にスルーせざるを得なくなっているのではないかと邪推しています。
電子メールが証拠として扱われた裁判例を紹介
そしてもう一点。電子メールが証拠として扱われ、しかもその真正性が争われた上で、契約が存在した証の一つとして評価され真正性が具体的に認められた貴重な裁判例である、東京地裁平成25年2月28日判決(判時2194号31頁)を取り上げている点も見逃せません。
同裁判例は、原告が提出した、被告の娘等が送信したメールの写しについて成立の真正が争点になった事案です。
裁判所は、一部のメールにより発注された看板が実際に納入されていること、メールに写真(被告が写っているもの)が添付されていること、被告の娘が一部のメールを送信した事実を被告が認めていることを挙げて、メールの作成に被告の娘らが関与したことを認定し、メールに「0001」等の行番号が付されている編集の痕跡については転送の際のものと考えられるので直ちに偽造を疑わせる事実ではなく、被告の娘らに被告が協力を要請することは容易であるのに陳述書等の証拠が提出されておらず、その他に偽造をうかがわせる事情はないとして、成立の真正を認めています。(P197-198)
クラウドサインのような電子署名のある電子契約でしっかり契約締結できるならそれに越したことはありませんが、電子メール等の簡単なコミュニケーション手段だけで合意をすることも珍しくない時代、このような裁判例があることを知っておくだけでも、デジタル時代における契約リスクの判断を行うにあたって参考になると思います。
(橋詰)
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