「責任を一切負わない」言い切り型利用規約でユーザーを諦めさせようとすると、適格消費者団体からお手紙が来ます
ユーザークレームや賠償請求を最小化するために、利用規約にはきつめの免責条項を定めておいたほうがよい、という考え方はそろそろ危険かもしれません。
目次
クレーム対応を楽にする「責任を一切負わない」言い切り型利用規約
2/5付のコインチェック社利用規約分析記事に対し、下記ブログをはじめ、twitter、NewsPicksなどさまざまなところでコメントを頂戴しました。
▼コインチェックの「当社は賠償責任を一切負わない」と定める利用規約は有効なのか(STORIA法律事務所ブログ)
https://storialaw.jp/blog/3834
それではなぜコインチェックは、消費者契約法上無効となる免責規定を含んだ利用規約を定めているのでしょうか。
これはひとえに「賠償する責任を一切負わない」と利用規約に書いておくことで、諦めてくれる登録ユーザーもいるかもしれない、という点に尽きると思われます。
コインチェック社がどうして言い切り型利用規約としたのか。これ以上の推測や詮索を重ねても仕方がないのでやめておこうと思いますが、上記引用部にもあるような「法律で無効になるとしても、利用規約上は責任を負わないときつめに言い切って、ユーザーからのクレームや損害賠償請求を諦めさせるほうが賢いのでは?」という意見は、今回の記事に対するSNS上でのコメントでも多く見かけました。企業サイドからもよく耳にする話で、いまだ根強いものがあります。
しかしながら、そうしたお考えをお持ちだとしても、そろそろ「責任を一切負わない」言い切り型利用規約のまま放っておくのはやめておいたほうがいいのでは、というのが今回取り上げたいテーマです。
不当な利用規約を修正請求する権利が適格消費者団体に与えられている
と言いますのも、2007年の消費者契約法改正のタイミングで「消費者団体訴訟制度(差止請求制度)」が設けられ、適格消費者団体が消費者契約法に抵触する利用規約を発見した場合、その企業に対し、利用規約の使用停止や変更を請求できる権利が法定されたからです。
消費者契約法
(差止請求権)
第十二条
(略)
3 適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第五号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項各号に掲げる場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない
消費者契約法第8条〜第10条により、一方的な免責を規定する利用規約が無効になる場合があることは、広く認知されるようになりました。それに対して、この第12条の修正請求権については、まだ一般的には認知されていないのではないでしょうか。
コインチェックの利用規約のように、「一切の責任は負わない」とだけ言い切ったような利用規約に同意を求めるだけで、この第12条に基づく利用規約の廃棄・除去(修正)請求を適格消費者団体から受ける可能性があります。
しかも応答文書のやりとりの詳細まで公開される
法律上はそういう権利があるのかもしれないけれど、利用規約の廃棄・除去請求を受けている企業なんてないでしょ?聞いたことないよ?と思われるかもしれません。
ところが、実際にこの権利に基づく請求が、適格消費者団体から複数の企業に対しなされています。レターの実物(抜粋)を見てみましょう。
貴社は,上記各条項において,「一切責任を負わない」「何らの責任も負わない」といった規定を設けている趣旨を,貴社の債務がないことを確認的に規定している趣旨であるとする一方,本件利用規約第12条5項(貴社に故意・重過失がある場合の貴社の損害賠償責任)は,上記各条項が規定する場合においても適用がある旨の回答をされています(略)。
しかしながら,上記各条項をみれば,貴社の故意過失の有無にかかわらず一切責任を負わないという規定に読め,そうである以上,上記各条項は同法8条違反となると思料します。
従いまして,貴社におかれては,上記各条項の使用を停止頂いたうえ,貴社に故意過失がある場合においては,貴社が責任を負うといった適切な内容に変更するよう申し入れます。
適格消費者団体のWebサイトを訪れると、大小様々な企業名が具体的に挙げられ、こうした応答文書がすべてインターネット上で公開されているのが確認できます。事案によっては、企業の法務部門から適格消費者団体に返信された企業側回答レターまでもが開示されています。
当然、企業としてはこのようなレターは開示されたくないはずです。にもかかわらず適格消費者団体はこれを公表しています。この点、適格消費者団体としては、消費者契約法第27条に基づく消費者被害防止のための「情報提供措置」であると位置付けているようです。
消費者契約法
(判決等に関する情報の提供)
第二十七条 適格消費者団体は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、消費者に対し、差止請求に係る判決(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)又は裁判外の和解の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならない。
適格消費者団体は、消費者契約法を活用して消費者の権利を守ることに特化したある意味での「プロ集団」ですので、一般の消費者を相手にするのとは訳が違い、企業側の対応コストはかなり高くつくことになります。さらには、上記のように回答した文書までもが公表されてしまうことによるレピュテーションリスクも、あわせて考えておく必要があります。
というわけで、ユーザー対応を楽にしたい一心で「責任を一切負わない」とだけ言い切るようなキツめの利用規約に同意を求めるのは、そろそろ時代遅れになりつつあるばかりか、さらなる対応コストを生む可能性すらあります、というお話でした。
追記:モバゲー利用規約が訴訟化
シティライツ法律事務所の平林健吾先生のブログでも詳しく解説されていますが、「埼玉消費者被害をなくす会」がディー・エヌ・エーに対し、2018年7月9日付、モバゲー利用規約の免責条項の使用差止を求める訴訟を提起しました。
この「埼玉消費者被害をなくす会」が、まさにこの記事で取り上げた適格消費者団体となります。
▼ 株式会社ディー・エヌ・エーに対して、差止請求訴訟を提起しました
2018年7月9日午前、「株式会社ディー・エヌ・エー」(本社:東京都渋谷区、以下、当該事業者という)に対する差止請求訴訟をさいたま地方裁判所民事部に提起しました。
(中略)
当該事業者が運営するポータルサイト「モバゲー」のサービス利用契約には、消費者契約法第8条第1項で無効とする内容が含まれている条項があり、該当する規約の使用差止を求めています。請求の趣旨は以下の通り。1 被告は、消費者との間で、被告が運営するポータルサイト「モバゲー」のサービス利用契約を締結するに際し、別紙契約条項目録記載の契約条項を含む契約の申込又は承諾の意思表示を行ってはならない。
2 被告は、その従業員らに対し、同被告が前第1項記載の意思表示を行うための事務を行わないことを各指示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
同会の発表資料には2016年から合計8回に渡るディー・エヌ・エー社との応答文書の実物もまとめて公開されており、担当者の氏名含め、紛争にいたる経緯がつまびらかにされています。プロ集団たる適格消費者団体と訴訟にいたり情報が晒されてしまう「可能性」が、こうして現実のものとなってしまいました。
企業としての方針や考え方もあろうかと思うものの、消費者もこうした報道を通し利用規約の不当条項に対する理解を深めています。クレーム対策としての有効性も限定的であろうことを考えると、BtoC企業において「責任を一切負わない」言い切り型利用規約を定める実益は、もはやほとんど無くなっているものと思われます。
(2018.7.10 橋詰改訂)
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