契約に関する事例・判例・解説

ヴァン・ヘイレンの「M&M’s契約」にみる合意の確からしさを確かめるアイデア


人は、契約書や利用規約の内容を本当に理解した上で合意=サインや押印をしているのでしょうか?ケイヤク・キヤクと聞いただけで、読むことすら諦めていないでしょうか?

これは、契約の世界の永遠の課題です。

例えば、インターネット上で一般的となっている「利用規約に同意」ボタンを押させる契約方式では、実態として利用規約を読まないユーザーが一定数存在するという調査(「ネットサービスの利用規約、読んでいますか?」など)は枚挙に暇がなく、そんなやり方で真の同意・有効な同意が得られているのか?という批判は絶えません。

このような批判に対し、企業法務の実務家達は、規約の文字数を減らして読みやすくしたり、「同意する」ボタンを大きくわかりやすくしたり、チェックボックスを増やすなどの工夫で対処しようとしてきました。しかし、それで根本的な解決ができているという自信・実感を持てている企業は、おそらくいないはずです。

この課題の解決のヒントになりそうなちょっとしたアイデアを、ロックバンド ヴァン・ヘイレンのメンバーだったデイヴィッド・リー・ロスの自伝『CRAZY FROM THE HEAT』の中に見つけました。

彼らは、ライブ運営契約書の数ある条項の中に、このような義務を忍ばせたのだそうです。

There will be no brown M&M’s anywhere in the backstage area or immediate vicinity, upon pain of forfeiture of the show with full compensation.

自伝ということを考えると、おそらく契約書の原文はもう少し厳密な条文だったのではと思いますが、ヴァン・ヘイレンが「楽屋に“茶色”を全て取り除いたM&M’sチョコレートを入れたボウルを用意すること」を義務として定め、それができていなかった場合にはライブを取りやめたのは、知る人ぞ知る逸話となっています。

これはもちろん、そういう製品が販売されていたとか、彼らが本気で茶色の粒が取り除かれたM&M’sが食べたかったとか、そういうわけではありません。お気づきのとおり、

  • 契約の相手方が、契約書に書かれた条件の細部まで確認して合意しているか?
  • 書面にサインするだけで終わりでなく、(M&M’sのたくさんの粒から茶色の粒だけを取り除くという細やかな)オペレーションを、現場まで徹底できるか?

を、実際にそのまま締結して違反されても実害のない「M&M’sテスト」を契約書に仕込んでおくことで、オペレーターの注意力や契約履行能力を試し、担保したわけです。確かにこの方法であれば、ライブ中に万が一の事故が起こる前に、それを確認することができます。

クラウドサインのテーマとして、ブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクトによって契約をどのように再発明できるか、というものがあります。このようなお題目を目の前にするとどうしても小難しく考えてしまいがちですが、案外、こんな小さなアイデアをテクノロジーと組み合わせることで実現できることなのかもしれません。

(橋詰)

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