本当にAIで契約書が作れるのか? NDA自動生成AI「Robot Lawyer LISA」を試しながら未来を占ってみた
「AIで契約書が自動で作れるようになる」とはいいますが、具体的に、どこまでが自動で、できあがる契約書はどの程度のものなのでしょうか。試してみなければなんとも言えない、というところでしょう。
そんな方向けに、無料で試せるAI契約書自動作成サービスがあります。先日「契約系リーガルテックベンチャー10選」の記事でご紹介した1社、Neota LogicのAIエンジンを使った「Robot Lawyer LISA」というサービスです。
▼Robot Lawyer LISA
http://robotlawyerlisa.com/
対話型インターフェースで必要事項を入力
以下のようなブラウザに表示されるフォームに従って、必要事項を入力していきます。ステップ(画面数)は、完成した契約書を確認し相手方に送信するステップまで含めて全部で11もあります。
各ステップごとに、2〜3問の質問が用意され、それに入力をしていきます。その回答により、次の質問や入力項目が変化・増減していく仕組みです。このあたりの挙動にAIを用いているとのこと。
最後に、完成版とするための全文チェックをするよう促され、相手方のメールアドレスを入れると、PDFで完成版の契約書が送信されて来るようになっています。
品質はどうか
送られて来る電子ファイルは2つ。生成された契約書と、これに対応する法律知識と条項解説になります。
出来上がった契約書式の美しさ・見やすさとしては、可もなく不可もなくといったところ。条項の間が妙に詰まっていて、行間を空けてくれてもいいのになあと思いましたが、選択により条数が多少変わるので、行間を空けてページ送りがおかしくなるのを回避しているものと推測します。
内容については、フォームで答えたとおりに条項化されていることは確認できました。ただし、準拠法と裁判管轄について、AIから意向の確認や質問がなかったけどどうするのかな・・・と思っていたところ、
このように、英国の法律事務所が監修ということもあってか、強制的にEnglish Law(Laws of England)とthe courts of England になっていました。致し方ないこととはいえ、準拠法や裁判管轄は現実の契約交渉では一番争われるところです。ここが変更できないだけで、英国以外では使えないツールになってしまっているおそれがあります。
全体の感想としては、こうして実際にいじれるツールを他社に先んじ作成し公開していることはすばらしいと思うものの、品質は予想の範囲内だったかなというところです。
AIによる契約書作成の未来
さて、実際に試していただけるとわかるように、入力を求められる項目はお世辞にも少ないとは言えません。契約書を作り慣れているはずの私でも、15分程度の時間を要します。
しかも、秘密保持契約書を作る際に必要な項目である、
- 秘密を開示する目的(利用目的)は何か
- 秘密情報の定義をどの程度広く/狭くするか
- 秘密厳守の原則に対し、有資格者(弁護士・公認会計士等)だったら情報を開示してOKなどの例外を設定するか
- 秘密情報の複製・破棄・返還手続きをどこまで厳しくするか
- 秘密をどのくらいの期間守らせたいか
こういった項目は、秘密情報の重み、当事者の価値観や相手との交渉により決まるものであり、AIがどんなに賢くとも自動的に判定・決定しうるものではありません。つまり、契約当事者の意思によって左右される項目は、人間が相手とコミュニケーションの上インプットすべき項目として今後も必ず残るわけです。
そういうこともあって、次の2ndステップで問われるのは、人間のインプットを最小化しつつ、案件が抱えるリスクと相手のバーゲニングパワーを想定した「いい塩梅」の見極めができるようになるかどうかに期待が集まります。
M&Aの検討を目的としたNDAでデューデリ用文書を交換するなら秘密保持期間は10年以上にするとか、代理店契約の交渉目的で原価データ等を渡すぐらいなら2年でいいやとか、今現在は法務と現場が見極めている「いい塩梅」を、同業他社やその会社におけるたくさんの契約実績のデータから分析して割り出し、当社のポリシーとして契約書生成プログラムを更新・反映し、その「いい塩梅」に自動的に調整した契約書を作れるようになるか。
さらに次の3rdステップは、実際に契約締結された結果としての契約書をビッグデータとして分析し、契約実務の知見を抽出する時代がやってくるものと推測します。
さまざまな交渉とコミュニケーションの末に生まれた生生しい駆け引きの結果である契約書を大量にデータとしてインプットし、AIがそれを人間にはできないレベルで詳細に分析したときに何が見えて来るのか。この時点でやっと「AIで契約書を作った甲斐があった」と実感することになりそうですが、現状を見る限り、そこに到達するにはまだまだ時間がかかりそうな予感がします。
(橋詰)
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