CM契約に見る合意の限界
ネット時代のCM契約において、ポイントは成果物の使用範囲である—そんなメッセージが込められたCM契約に関するeBookをご紹介しながら、契約書による合意の限界について考えてみたいと思います。
取り上げさせていただくのは、JAAA(日本広告業協会)が作成した、『デジタルネットワーク時代の権利者との「CM契約」』と題する、CM契約のポイントを解説するeBookです。同協会のWebサイトから、どなたでも無料でダウンロードできます。
短い時間で情報を的確に伝えるプロである広告業のみなさんが作成されただけはあり、契約という難しいテーマにそれほど明るくない一般の方でも読む気になる分量に文章を抑え、デザインにも配慮がなされています。
また、Youtubeなどの新しいメディアを使った広告ビジネスの隆盛も踏まえて、精緻に検討されたことが伺える条項例や広告出演契約書ひな形全文も掲載されています。こちらは企業法務担当者や弁護士等法律家の方々にも役に立つものになっています。
さて、こうしたeBookを作成・配布してまでJAAAがアピールしようとしたことは何でしょうか?
一つには、契約書が軽視されあまり作成されない慣行がある広告事業者に対する警鐘があるでしょう。しかしそれだけでなく、CMという成果物を制作者が想定した範囲外で使用するユーザーに対する警鐘も、含んでいるように思われます。
最終ページに、まるであとがきのように掲載されている以下の一節に、後者についての広告業界のフラストレーションや危機感が表現されているのが見て取れます。
広告実務において「目的外利用」や「二次利用」という言葉が使われます。それらの言葉は、広告媒体や広告手法が画一的であった時代においては、誤解される余地がさほどありませんでした。「本来の広告目的内なのか、外なのか」という議論が単純だったからです。
(略)
しかし、メディアが多様化し、マーケティング手法が複雑化・複合化されている今日、用語としてのコンセンサスが得にくくなっており、しばしばトラブルを生ずる原因にもなっています。
(略)
今後、「目的外利用」ということを議論する場合は、「契約目的外利用」にあたるかどうかで議論する必要があります。つまり、書面による契約において権利の帰属や使用条件が明確でなければ単なる感覚論、感情論でしかなくなってしまうため、契約書(書面のタイトルは何でもかまわない)に使用条件を明記することが肝要なのです。
テレビCMを制作するのとさほど変わらない手間やコストをかけた成果物が、Youtubeやそれに続く新しいネットメディアにすぐに転用されてしまいかねない時代。正当な権利(と対価)を確保するためには、今までの広告業界の慣習から脱却し、契約書での合意を厳密に取り交わすべきだ。そう訴えているように見えます。
さて、契約書に書いてあれば当初予定どおりの使用範囲として考えてOKで、書いてなければそれは「契約目的外」なのだから、別途権利と対価の支払いを主張させてもらおう。これは一見クリアなように見えます。しかし、契約に微に入り細に入り書いたとして、こんな紛争が起きたらどうでしょうか?
「Youtube用に弊社が制作し納品した動画を、Instagramストーリーズに転用されましたよね?契約書に記載した“Youtube等動画サイト”にはニコ生・AbemaTV等動画サイトでの使用は含みますが、インスタでの使用は含んでおりません。契約目的外利用なので、別途対価をいただきたいと思います」
「いや、そんなこといっても、同じ“インターネット上で再生される動画”でしょう?インスタだって最近では静止画より動画を推しているわけだし、Youtube等動画サイトに含まれると当社は理解しています。契約目的内の利用ですから、これ以上は支払わないですよ」
どこまでいっても、結局は言葉の解釈の争いになってしまうものです。
それでも何も書いてないよりあったほうがマシ、というのが契約書を作る意味ではあるのですが、いくら契約書の作成を徹底し文言を厳密にしていっても、上記のような限界は必ずやってきます。この限界を超えて発生したトラブルが起こるたびに、いちいち訴訟を提起するのかといえば、それも疑問です。
広告業界やCM契約に限ったことではありませんが、
- なるべく明確な合意をしそれを記録・証拠化すること
- その合意によっても解決しない場合、できるだけ訴訟に頼らない妥当な決着方法を決めておくこと
この両方をセットで考えなければ、契約(書)軽視のカルチャーは変わらないのかもしれません。
(橋詰)
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