契約実務

業務委託契約書のチェックポイント

業務委託契約は、企業活動で頻繁に利用される契約類型ですが、同時にトラブルを招きやすい契約でもあります。当記事では、トラブルを未然に防止するという観点から、業務委託契約を締結する際に最低限注意しなければならないポイントについて説明します。

業務委託契約書とは

業務委託契約とは、自社の業務を外部に委託する契約です。いわゆる「外注」と呼ばれるものがこれに該当します。

業務委託契約は、下請法等の適用対象とならない限り、契約内容を自由に決定できます。しかしその反面、契約条件が不明確だと後々トラブルに発展しやすいため、契約書で合意内容を明記しておくことが重要です。

特に委託業務の範囲、当該委託業務の報酬額又はその算定方法についてトラブルになりやすいことから、これら事項に注意して業務委託契約書を作成する必要があります。

基本的な記載事項

委託業務の内容

業務委託契約によくあるトラブルとして、委託したつもりの業務がなされない場合、委託したつもりのない業務について対価を請求される場合などがあります。

こうしたトラブルの発生を防ぐためには、契約書の中で委託業務の内容を具体的に明記すべきです。

例えば、製造物の制作を委託する場合は、製造物の仕様について、仕様書を用いるなどして受託者との認識に齟齬が生じないよう詳細に定めておくとよいでしょう。また、システム保守の様な役務の提供を委託する場合は、保守業務の対応時間は何時から何時までか、土日祝日・年末年始の対応はどうなるかなどについて、漏れのないように契約書に明記しましょう。

業務委託料及び支払方法

委託業務料の定め方

業務委託料の定め方としては、報酬額を定める方法と、報酬額の算定方法を定める方法の2通りがあります。

  • 報酬額を定める方法
    例:「金1,000万円」
  • 報酬額の算定方法を定める方法
    • タイムチャージ方式
      例:「1時間当たり、金2万円」
    • レベニューシェア方式
      例:「総売上額の50%相当額」

ここでも、トラブルの発生を防ぐため、例えば上記の「金1,000万円」や「総売上額」には税額が含まれるのか等を、契約書上で明確に定めておくとよいでしょう。

支払方法の定め方

現金払いなのか銀行振込なのか、銀行振込の場合の振込先の口座情報、支払期限などについて、契約書に明記しておくべきです。

下請法の対象取引の場合は、支払日が給付の受領日から起算して60日を超えることのないように注意しましょう。

個別的記載事項

成果物の納入及び検収

納入

システムや製品等を制作する業務を委託する場合、受託者はできあがった物(以下「成果物」といいます。)を納入する必要があります。

ここでも、納期、納入場所、納入費用(運送費等)の負担については、委託者と受託者の間で認識に齟齬があると、後々トラブルに発展する可能性が高いため、契約書上で明確に定めておくべきです。

検収

成果物の制作を委託する場合は、委託者による検収を実施し、その合格をもって、納入完了とすることが一般的です。検収に関わる規定としては、検収期間、委託社が期限までに受託者に検収に合格した旨の通知を行わなかった場合のみなし合格の規定、検収に不合格だった場合の受託者の無償での修補義務などといった事項を定めることとなります。

条項例:甲は、前項に従い納入物の納入がなされた日から個別契約で定める検収期限までに、検収を実施し、数量不足、品質不良等を含む内容の検収結果を乙に通知する。なお、同期限までに甲から乙に対し何らの通知が発せられないときは、同期限が経過したときに検収に合格したものとみなす。

成果物に関する権利

委託業務の遂行により生じた成果物の所有権、知的財産権などの権利について定める必要があります。

委託者としては、所有権、知的財産権共に、「納入完了と同時」に移転するよう定めることが一般的です。

受託者としては、成果物に関する知的財産権を全て委託者に対して譲渡してよいかを検討する必要があります。例えば、「モジュール」「ルーチン」等の汎用的に用いられるものに関しては、受託者が再利用可能であるという性質から、委託者に対し知的財産権を譲渡せず、受託者に留保しておくことが考えられます。この場合においても、取扱いを契約書上に明確に定めておくことが安全です。

条項例:乙が本件業務を遂行する過程で行った発明、考案等又は作成した一切の成果物から生じた、著作権(著作権法第27条及び第28条の権利も含む。)、商標権、意匠権、特許権その他の権利(以下総称して「知的財産権等」という。)については、すべて乙から甲に対する成果の納入と同時に、乙から甲に移転する。

契約不適合責任

契約不適合責任とは、成果物のある業務の場合、その成果物の種類・品質・数量について、契約の内容に適合しなかったときに、受託者が委託者に対して負担する責任を指します。2020年4月に施行された改正民法により、新たに定められた文言であり、それ以前は瑕疵担保責任とも呼ばれていました。

成果物の種類・品質・数量につき、これらが契約に定めた内容と適合しない場合に契約不適合責任が生じるため、成果物の種類・品質・数量は、契約で明確に定めておくべきということになります。

また、契約不適合責任に関しては、どのような請求ができるか(修補請求のみか、代替物の引き渡し、代金減額請求を認めるかなど)、その請求ができる期間をどうするか(民法上は、買主(委託者)が種類、品質の不適合を知った時から原則1年以内の通知が必要。契約上は、請求可能期間を、成果物の検査合格時点から一定期間に制限するのが一般的)などを契約に定めることが考えられます。

秘密情報の管理義務

昨今、業務委託先からの情報漏洩事案もみられ、秘密情報を保護する必要性が高まっています。

特に、自社のシステムやサービスの開発を委託する場合には、事業情報を委託先にも開示することになるため、情報漏洩によってビジネスに多大な支障が生じることがあります。

秘密情報の管理のためには、まず、保護対象とする秘密情報の範囲を明らかにすべきです。

不正競争防止法上の「営業秘密」を秘密情報として保護対象とするとしても、同法は「営業秘密」につき、第2条第6項において「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と規定しているのみであるため、これだけでは具体的な範囲が明らかではありません。

そこで契約書では、保護対象となる秘密情報を明確に定義しておくことが合理的です。

次に、秘密情報の管理について、受託者の具体的な義務の内容を定めます。具体的には、秘密情報について、第三者への開示または漏洩の禁止や目的外使用の禁止といった事項を定めることが一般的です。

条項例:甲及び乙は、秘密情報について、本契約及び個別契約の目的の範囲内でのみ使用するものとし、当該目的の範囲を超える複製又は複写が必要なときは、事前に相手方から承諾を受けなければならない。

損害賠償

委託者としては、受託者が適切に業務を遂行しない場合等で損害を受けた場合には、当該損害の全てを受託者に請求できるようにしておく必要があります。

一方で、受託者としては、委託業務の遂行上で意図せぬ損害を委託者に対して与えてしまう場合があります。そして、その場合の損害賠償の金額が過大になるケースも想定されます。このような事態に備え、受託者としては損害賠償の金額の上限を委託料の額までとすることなどが考えられます。

条項例:甲及び乙が、本契約又は個別契約に関連し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を受けた場合は、相手方に対し、当該損害の賠償を請求することができる。但し、損害額の範囲は本契約に定める委託料の額を上限とする。

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